[CSP12-4] 片頭痛の脳波研究:Back to the basic
片頭痛は,15歳以上の日本人口の8.4%という高い有病率をもち,強い頭痛と合併する嘔吐など生活に与える影響の大きさから頭痛の中でも特に重要な疾患である(Suzuki, 2018, 神経治療).しかし,片頭痛に伴う眠気,食欲変化,精神症状の変化といった多彩な予兆,特徴的な視覚前兆などの前駆症状の詳細が臨床的にかなり明らかにされているのに比べると,疾患の病態生理の全容は未解明であり,客観的な生理学的バイオマーカーも見つかっていない.脳波検査は様々な脳疾患の病態評価に使用され始めてから,片頭痛にも臨床応用が試みられ,脳波所見は生理学的バイオマーカーの候補として期待されてきた.しかし,後頭部における徐波の存在や光刺激に対する過敏性の存在などを報告した研究を含め,70年以上にわたって膨大な数の研究がなされてきたにも関わらず,系統だった脳波異常の記載や,その脳波異常が生じるメカニズムを追求したものは乏しい.一方,近年ではてんかんの臨床・研究領域で発展してきた脳波記録技術の向上により,古典的なBerger band(0.5-30 Hz)以外の低周波(いわゆるDC電位)や高周波帯域も含んだ広域周波数帯域脳波(wide-band EEG)を実臨床でも記録・解析できるようになった.京都大学脳神経内科で,難治性てんかん患者の硬膜下電極からてんかん発作に先行する明瞭なDC電位を記録することに成功したことにより(Ikeda, 1996, Epilepsia),DC電位の臨床的意義が注目されはじめた.また,脳損傷のある患者に対して、皮質脳波と頭皮上脳波を同時記録し、緩徐電位変化を頭皮上脳波でも記録できる可能性が示されている(Drenckhahn, 2012, Brain).動物実験モデルを主体とした考察から,片頭痛の病態,特にその前兆期にはグリア細胞やニューロンの脱分極が引き金となり,周囲に非常にゆっくりとした脳活動低下領域が拡延していく皮質拡散性抑制(cortical spreading depression: CSD)が関係していると考えられている(Dodick, 2018, Lancet).実臨床ではいまだヒトの片頭痛におけるCSDは検出できていないものの,頭皮上脳波でDC電位の記録が臨床的に可能になったことで,片頭痛における脳波研究は新知見がもたらされる可能性がある.本講演では,細川が今学会中に報告する内容を含み,我々が行っているwide-band EEG記録・解析による片頭痛の病態解明に向けた新たな取り組みを紹介し,その発展の可能性について議論する.