50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム6 姿勢制御・運動協調とニューロモデュレーション (日本基礎理学療法学会)

Thu. Nov 26, 2020 2:40 PM - 4:10 PM 第8会場 (2F K)

座長:平岡 浩一(大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類)、大西 秀明(新潟医療福祉大学)

[CSP6-3] 前庭器官へのノイズ電流刺激が姿勢制御に与える効果

犬飼康人1,2 (1.新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科, 2.新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所)

前庭器官(半規管,耳石器)から入力される前庭感覚は,固有受容感覚(体性感覚)や視覚とともにヒトのバランス制御に貢献する主要な感覚情報である.前庭器官が障害されると,バランス障害が出現することは周知の事実である.前庭器官は,他の感覚器と同様に加齢に伴い機能が低下することが明らかとなっており,加齢に伴う前庭器官の機能低下は高齢者のバランス障害を引き起こす要因の一つであると考えられている.しかしながら,前庭器官をターゲットとしたバランス機能を向上させるための治療法は確立されていない.近年,微弱なノイズ刺激を感覚器に付加することで,「確率共鳴」という現象が生じ,感覚機能が向上することが明らかになっている.我々は,これまでに前庭器官へのノイズ電流刺激(前庭ノイズ電流刺激)がバランス機能に与える影響について検証を行ってきた.まず,若年健常者を対象に前庭ノイズ電流刺激が立位重心動揺に与える影響について検証を行い,前庭ノイズ電流刺激中に立位重心動揺(総軌跡長,平均動揺速度)が有意に減少することを明らかにした(Inukai et al., 2018a).さらに,地域在住高齢者を対象として,前庭ノイズ電流刺激が立位重心動揺に与える影響について検証を行った結果,若年健常者と同様に地域在住高齢者においても前庭ノイズ電流刺激中に立位重心動揺が有意に減少することが明らかとなった(Inukai et al., 2018b).興味深いことに,前庭ノイズ電流刺激の立位重心動揺を減少させる刺激効果は,刺激前のバランス機能が不良である被験者(立位重心動揺が高値を示す被験者)で大きいという相関関係があることも明らかとなった.また,前庭ノイズ電流刺激の刺激効果は,刺激中だけに限定されるものではなく,刺激終了後にも一定時間は持続することも私たちの研究成果から明らかになっている(Inukai et al., 2020a).先行研究において,立位重心動揺が高値を示す高齢者は易転倒性を呈することが明らかになっており,刺激中ならび刺激後の立位重心動揺を減少させる効果を有する前庭ノイズ電流刺激は,前庭器官をターゲットとしたバランス機能を向上させる有効な治療法である可能性を示唆している.しかしながら,前庭ノイズ電流刺激の刺激効果は,刺激を受ける環境や条件によって異なることも明らかになっており,臨床応用に際しては刺激条件や環境を慎重に選択する必要がある(Inukai et al., 2020b).本シンポジウムでは,私たちが行ってきた前庭ノイズ電流刺激がバランス機能に与える効果を中心に報告する.さらに,現在までに明らかになっている前庭ノイズ電流刺激の刺激効果メカニズムについて紹介する予定である.