[I-P1-4-05] Selexipagにより甲状腺機能亢進症を呈した遺伝性肺動脈性肺高血圧症の症例
Keywords:肺動脈性肺高血圧症, Selexipag, 甲状腺機能亢進症
【背景】プロスタグランジンI2注射製剤による甲状腺機能異常については過去に報告があるが、Selexipagによる甲状腺機能異常についてはほとんど報告がない。今回、Selexipagによると考えられる甲状腺機能亢進症を経験したため、文献的考察を交えて報告する。【症例】21歳男性。8歳より易疲労感が出現していた。9歳時の心臓カテーテル検査で平均肺動脈圧(mPAp) 98mmHg、肺血管抵抗係数(PVRi) 48.9U・m2であり、BMPR2遺伝子変異を有し、遺伝性肺動脈性肺高血圧症と診断した。内服薬によるcombination therapyで改善に乏しく、治療開始後9ヶ月でEpoprostenol持続静注を開始した。Epoprostenol 65ng/kg/minまで漸増し、治療開始後6年(15歳)でmPAp 38mmHg、PVRi 7.57U・m2であった。さらなる改善を要すると判断し、1年間でEpoprostenolを80ng/kg/minまで増量し、同時にSelexipagを追加導入した。Selexipagは0.4mg/dayから開始し漸増し、1年半で最大投与量である3.2mg/dayとした。しかしこの頃から倦怠感や食欲不振が見られるようになり、心臓カテーテル検査結果においてもmPAp 50mmHg、PVRi 9.43U・m2肺高血圧は増悪した。以前の甲状腺機能評価では異常を認めていなかったが、FT3 7.46pg/ml、FT4 2.52ng/dl、TSH 測定感度未満と甲状腺機能亢進を認め、Selexipagを2.4mg/dayまで減量したところ、甲状腺機能は正常化し、食欲も徐々に回復した。しかし1年4ヶ月後に食欲不振、体重減少が見られ、甲状腺機能亢進が再発した。この時、抗TPO抗体、抗Tg抗体、TSH刺激性レセプター抗体はいずれも高値であり、バセドウ病の所見であった。Selexipagを2.0mg/dayに減量したところ、甲状腺機能は正常化し、肺高血圧もmPAP 48mmHg, PVRi 6.22U・m2と改善を認めた。【考察】Selexipagによる甲状腺機能異常の頻度は多くはないものの、導入後は定期的に甲状腺機能を確認する必要がある。