[II-SY12-03] 病的高シェアストレスは転写因子ERGを低下させ、内皮間葉転換を起こし肺動脈性肺高血圧を発症させる
Keywords:肺動脈性肺高血圧, 病的高シェアストレス, 内皮間葉転換
【背景】近年、シミュレーション医学により、心室中隔欠損や特発性肺動脈性肺高血圧が肺細動脈において病的高シェアストレスを生じていることが報告された。【仮説】肺血管内皮細胞は病的高シェアストレスを感知すると、内皮間葉転換を起こし肺細動脈を閉塞させる。【方法】細胞培養実験は、ibidi社のフローポンプシステムを用いて培養液を一方向性に還流させ、正常シェアストレス(15dyn/cm2)または病的高シェアストレス(100dyn/cm2)をヒト肺動脈内皮細胞に48時間与えて行った。左右短絡肺高血圧マウスは、腹部大動脈と下大静脈の隣接部を穿刺して作成した。【結果】細胞培養実験において病的高シェアストレスは、血管内皮細胞マーカーであるPECAM1やCDH5の発現を低下させ、間葉系マーカーであるACTA2やFSP1の発現を増加させ、内皮間葉転換を示した。また、血管内皮細胞マーカーの遺伝子を発現させる転写因子ERGを低下させ、内皮間葉転換を抑えるBMPR2の発現を低下させた。そこでsiRNAを用いてERGの機能低下実験を行うと、正常シェアストレス下においてPECAM1、CDH5やBMPR2は低下し、ACTA2の発現が増加し、内皮間葉転換が再現された。さらに、レンチウイルスを用いてERGの機能亢進実験を行ったところ、病的高シェアストレスにおいて、PECAM1、CDH5やBMPR2は増加し、ACTA2の発現は減少し、内皮間葉転換がレスキューされた。次に、左右短絡肺高血圧マウスを用いて生体実験を行った。予防的に、アデノ関連ウイルスベクターを用いて肺血管内皮細胞特異的にERG機能を亢進させると、左右短絡作成8週間後の内皮間葉転換を抑制し、肺細動脈の筋性化が抑制され、右室収縮期圧、右室重量を共に減少させた。【結論】病的高シェアストレスは転写因子ERGの発現を低下させ、内皮間葉転換を起こし、肺細動脈のリモデリングを起こす。ERGをレスキューさせる治療薬は、肺動脈性肺高血圧の新たな治療薬の候補となる可能性がある。