[II-SY16-02] 小児集中治療医からの視点
Keywords:小児集中治療室, 小児集中治療医, 小児循環器集中治療医
1994年宮坂らは岩井の意志を継ぎ国立小児病院に小児集中治療室を創設、発育発達過程にある小児の気道呼吸管理を軸とした麻酔科学に病態生理学を内包し、我が国に小児集中治療医学を萌芽させた。しかしながら現在30を超えて乱立した小児集中治療室の中で2012年発出の孤高の基準を満たす施設はわずかでコロナ禍で加速した小児医療の変容がさらに厳しい野分をもたらし、その学問土壌は決して肥沃ではない。また子どもを取り巻く環境は、出生前診断の急増により積極的な種の選別を社会に播種した。さらには臨床家の能力を遙かに凌駕する技術革新が高精度アルゴリズムを提供し、高難度手技を可能とする。自ずと医師の役割は限定的になりかつ質的深化を果たさなければその豊潤な収穫も保証されない。新興再興感染症のパンデミックはワクチン開発と相まって極端な様相を呈するがもはやそれは災害ではなく季節を巡る日常と捉える必要すらある。我々はこうした地球環境の加速度的変化・破壊の激流のただ中にあり、路傍の石ではいられない。人口動態変化と地域医療の疲弊が、医療行政の失政を嘲笑うが如く、医療の集約化・高機能分化という大河へと注ぐよう作用するがそれでも刹那を生きるものの些末な理由が、大河に向かう渓流に小さくも無数の石として閉塞機転を生じさせる。さて2022年度小児集中治療室管理料基準改定の人工心肺80例がもたらすものは何か。残念ながら病院前救護から救命初療、施設間搬送と自らを厳しく律してきた救命の連鎖基準から小児循環器診療へと大きくシフトする契機となるであろう。学問として大樹を成す小児循環器学が本改訂を得て、果たして小児集中治療室を席捲する機会と出来るかは、ここのイシの使い方である。大河に流れを集めて、豊かな大地をなすことが、無数の小児循環器集中治療医の育成という果実をもたらすのは自然の摂理である。大海を知らない蛙としてはかく思う。