[III-P6-5-07] 小児心臓外科領域における周術期MRSA感染対策の検討
Keywords:感染症, MRSA, 同一遺伝子
【目的】医療感染予防対策が昨今飛躍的に普及した一方で、MIC creepingをはじめMRSA感染症における薬剤耐性化の問題がクローズアップされ、特にインプラント留置の多い重症小児心疾患児では注意を払う必要がある。当院では時代変遷に準じて様々な周術期感染予防対策を行ってきたが、その成績や問題点を後方視的に検討した。【方法】2014年以降に小児開心術を行った431例を対象とした。MRSA保菌者に対する術前鼻腔粘膜除菌や抗MRSA薬による術前単回予防投与・術前皮膚消毒薬の変更等、周術期管理を修正した2015年からの症例をA群(368例)、A群以前の症例をB群(63例)とした。術後縦隔炎を生じた症例では直ちに外科的ドレナージを行った後にバイオフィルム形成阻害を目的にした抗MRSA薬等の多剤併用薬物療法を行った。【結果】術後縦隔炎発症例はA群9例(2.4%)、B群4例(6.3%)(p<0.05)で、術前MRSA保菌者のみが有意な周術期危険因子であった(p<0.05)。感染予防バンドルの浸透により感染発症率は経時的に低下していたが、直近約1年間に近接期に連続3件の抗菌薬多剤耐性のMRSA感染例が生じた。3例の菌株はPOT法によるスコア(POT106-183-37)と毒素遺伝子(Staphylococcal Cassette Chromosome(SCC)mec:4型、Staphylococcal Enterotoxin A及びE陽性)で同一の遺伝子株である事が判明した。なお術後縦隔炎を生じた全例では加療終了後に感染再燃例は無く長期薬物内服に伴う弊害も認めていない。【結論】小児開心術後に問題となるMRSA感染症に対する当院の周術期感染対策は術後感染症発症率軽減に効能を示したが未だゼロには抑制できていない。MRSA感染撲滅には術前MRSA保菌や高病原性の同一種のMRSA菌株が蔓延しないための院内での接触伝播予防策の強化及び感染症発生時の菌株の詳細な分子疫学的解析が望まれる。