日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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学校保健体育研究部会 » 【課題A】 大学体育の授業をいかに良質なものにするか

学校保健体育研究部会【課題A】口頭発表②

2022年8月31日(水) 11:00 〜 12:19 第5会場 (2号館4階4E教室)

座長:高橋 浩二(長崎大学)

11:32 〜 11:47

[学校保健体育-A-08] 体育原理のゆくえ(哲)

「原理」から「哲学」への移行過程について考える

*髙尾 尚平1 (1. 日本体育大学)

日本体育・スポーツ・健康学会は、学際的な研究を推進し、実践的・応用的な学術知を社会へ発信すべく、2020年に応用(領域横断)研究部会を設立した(菊,2022)。学際的・実践的な知の産出を期した制度設計の変革は、体育学会が発足した1949年以降、はじめてのことであるといえるだろう。
 とはいえ、わが国の体育学には、学際的・実践的な知を志向する研究領域が存在していなかったわけではない。体育学には、「体育原理」と呼ばれる研究領域があった。「体育原理」は、米国の“principles of physical education”(以下,PPE)をモデルとしてわが国に受容された。PPEは、人文・社会科学から自然科学へいたる知見を集約し、体育実践に寄与しうる原理原則を体系化しようとする研究領域である(深澤,2016)。1962年には、体育学会に「体育原理専門分科会」が設けられ、「体育原理」の研究組織は学会制度のなかに拠点を獲得することとなった。
 だが、わが国の「体育原理」は、PPEをモデルとしたものであったにもかかわらず、その実質は、おおよそ体育の哲学的研究を志向するものであったといわれている(佐藤,2006)。結果的に、2005年には、「体育原理専門分科会」は、「体育哲学専門分科会」へ名称変更がなされている。
 もっとも、わが国の「体育原理」の歴史を紐解いてみると、少ないながらもPPEを志向した痕跡を確認することができる(前川,1981;川村,1985)。また、「体育原理」を人文・社会科学的な領域に収斂することに対しては、一定の疑義が投げかけられてもいた(飯塚,1965)。学際的で実践的な知への志向は、「体育原理」の名のもとで萌芽しつつあったと考えられる。
 そうであるならば、学際性と実践性を志向した「体育原理」は、どこへいったのだろうか。この点を究明すべく、本研究では、日本体育学会の設立から2005年の名称変更までの期間において、「体育原理」がいかなる概念として理解されてきたのかを考証し、わが国の体育原理研究の展開について考察する。