日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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競技スポーツ研究部会 » 【課題A】 トップアスリート養成をいかに効果的に行うか

競技スポーツ研究部会【課題A】口頭発表②

2022年8月31日(水) 11:00 〜 11:47 第2会場 (3号館4階401教室)

座長:須甲 理生(日本女子体育大学)

11:00 〜 11:15

[競技スポーツ-A-04] 絶対的状況下におけるアスリート支援のための アスリート・ターミナルケアとスポーツチャプレンの機能(心)

アスリートとしての「死」と人間としての「再生」

*前田 翔吾1 (1. 東洋大学大学院総合情報学研究科博士後期課程)

新型コロナウイルス感染症世界的蔓延の影響により、東京五輪2020は、五輪史上初1年延期という事態に見舞われた。開催が近づいているにも関わらず開催可否は不透明であり、更には中止や再延期という国民からの意見が約6割以上を占めるといった状況であった。2021年7月23日に賛否両論の中、開会式が開催されたが、中止を求める声が減少することはなかった。政治的・経済的な理由による強引な五輪議論は、本来の主役であるアスリート達を置き去りにしている。特に、開催の可否、世論や社会の変化にトップアスリート達は翻弄され続けた。努力を続けてきたアスリート達は何も悪くないにも関わらず、五輪に関わること自体が悪である、といった世論さえ生まれ、東京五輪代表候補選手は未だかつて無い心理状態に追い込まれた。東京五輪の開催可否に関する報道に翻弄される代表候補者選手達のゆれうごく精神状態の変容を開催直前までの約1年間、詳細なヒアリング調査を行い、明らかにした。多くのトップアスリートが五輪の開催有無、通常開催の有無に対して不安をもっており、また、その不安への克服も「開催されると信じる」といった、いわば「思考停止」にする事による克服である事が推察された。また、「不安はない」と回答した選手もいたが、その根拠や理由は極めて曖昧であり、「不安はあるが克服している」と回答した選手達と同様、「思考停止」的な状態である事が推察された。つまり、今回の調査結果からトップアスリート達が「自分の努力では解決できない困難」に直面した時に発生する不安や絶望は、根本的には解決はしない、という傾向が強い事が明らかとなった。そこから、トップアスリート達が「自分達の努力ではどうしようもない」という状況に直面した場合、指導者はどのようなケアが可能であるのか、といった点に着目し、トップアスリートを支える仕組みづくりについて検討する。