日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題B】人々の生活に根ざした多様なスポーツ文化をいかに醸成していくか

スポーツ文化研究部会【課題B】口頭発表②

2022年9月1日(木) 09:00 〜 09:47 第10会場 (2号館4階45教室)

座長:加藤 えみか(京都産業大学)

09:32 〜 09:47

[スポーツ文化-B-06] 日本語版IViS(Interpersonal Violence in Sport)の開発と対人暴力が齎す病理性(心)

*豐田 隼1 (1. 山梨大学大学院医工農学総合教育部)

指導者による体罰や不適切な指導ハラスメント等の対人暴力は、喫緊の倫理的問題である。昨今の諸外国研究では、青少年期の被対人暴力経験は成人期における心理的苦痛の増大及びQOL低下と関連し(Vertommen et al.,2018)、自尊心低下やPTSD症状の上昇にも影響することが明らかにされている(Parent et al.,2021)。しかし、国内では、こうした負の心理的影響を定量的に検討した知見は未だ僅少である。また従来、自己報告の被対人暴力経験は名義尺度水準の回答が主であり、被経験内容や受傷頻度の具体性に乏しいという測定上課題が残存する。そこで本研究は、網羅的に被対人暴力経験の測定が可能なIViS(Vertommen et al.,2016)の日本語版の開発を試み、心的外傷性ストレス症状への影響を明らかにすることを目的とした。調査参加者295名のうち欠損を除く大学生196名(M=19.65歳;SD=1.14)を分析対象とした。日本語版IViSの開発ではCFA及びEFAを繰り返し最終的に18項目から成る心理的・身体的暴力の2因子構造が得られ、ω係数は十分な値を示した。基準関連妥当性の検討では、IES-R(Asukai et al.,2002)下位尺度と其々正の相関を示した。競技最高成績を基準とした重回帰分析の結果、心理的暴力被経験は、高等学校期及び大学期の成績高群において侵入・回避・過覚醒症状の全てに正の影響を及ぼしていた。大学期成績高群では過覚醒症状への被経験の交互作用が認められ、単純傾斜分析の結果、心理的暴力被経験が相対的に少ない場合、身体的暴力被経験は症状亢進に関連しない一方、心理的暴力被経験が相対的に多い場合には、身体的暴力被経験により寧ろ症状が低減する傾向が窺えた。こうした結果は卓越した競技成績群に限定的で、スポーツ指導場面における対人暴力が齎す特異な病理性の一端を示唆している。