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[03心-口-03] 他者の行為予測能力と自己の行為予測能力の関連性
“不器用さ”の認知科学的理解に向けて
協調運動の遂行に支障がある状態、いわゆる“不器用さ”の背景に、自己の行為結果の予測に関わる認知情報処理に問題があるという考え方がある。先行知見によれば、他者の行為の観察時にも、自己の行為予測に関わる情報処理が活動するという。この性質を利用すれば、他者の行為予測能力を評価することで、自己の行為予測に関する情報処理の状態を簡便に評価できる可能性がある。そこで本研究では若齢成人を対象に、他者の行為予測能力が、自己の行為予測能力や協調運動の成績と関連性をもつかについて検討した。 51名の若齢成人を対象者として、ボールの下手投げによる的当てに関する2つの予測課題と、的当て課題を実施した。他者の行為予測課題では、モデルの投てき動作映像(リリース直後に映像遮断)をディスプレイ上で観察し、ボールがどこに落下したかを予測した。自身の行為予測課題では、立位位置から2mもしくは4mにある的にボールを投げ、視野遮断後にボールがどこに落下したかを予測した。さらに、投てき課題の成績を、投てき距離2mと4mで評価した。3つの課題の成績基づき、Pearsonの相関係数並びにSpearmanの相関係数を算出した。 実験の結果、近距離(2m)の投てきにおいて、自己の行為能力課題と投てき成績の間に有意な相関が認められた。この結果は、運動の習熟と運動に関わる予測能力に関連がある可能性を示唆した。また、対象を投てき成績上位者に限定した場合、並びに、他者の行為予測課題について、実際に対象者が投げた距離(2&4m)に限定した場合、2つの行為予測課題の間に有意な相関が認められた。以上のことから、対象者がある程度習熟したスキルに対しては、他者の感覚予測課題を通して感覚予期の特性を評価しうると結論づけた。この結果は、他者の動きに対する評価が、内部モデル障害の有無を判定する簡便な課題として有益である可能性を示唆する。