日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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体育科教育学/口頭発表②

2022年9月2日(金) 14:40 〜 15:43 第2会場 (3号館4階401教室)

座長:大後戸 一樹(広島大学)

14:40 〜 14:55

[11教-口-05] 体育における直接民主主義に関する研究

丹下保夫の運動文化論を手掛かりに

*佐藤 亮平1、近藤 雄一郎2、沼倉 学1 (1. 宮城教育大学、2. 福井大学)

本研究は体育における直接民主主義の重要性を、丹下保夫が提示した運動文化論を手掛かりに提示することを試みるものである。 運動文化論とは、丹下(1961)が「人間形成のうちのどの領域を負担し、貢献するのが体育独自の領域なのか」という問いの答えとして、体育を「運動文化の追求を自己目的とした教育」であると規定したところから始まる。そして、1960年代に「ハンカー」や「ラグバス」といった既成の運動文化を改変したものを学ぶという試みが実践されてきた。こうした運動文化論の誕生の背景には、近代スポーツに対する丹下の問題意識がある。そこで、本研究ではこの丹下の問題意識の中にスポーツと学習者の関係性として直接民主主義を見出し、その重要性を提示することを目的とする。 研究方法は、丹下の体育科教育論が運動文化論へと発展した1960年前後に発刊された書籍および論文を対象とし、丹下がスポーツと学習者の関係に言及している箇所について分析する。また、直接民主主義については、多岐にわたる民主主義に関する議論を整理するために、その歴史的発展を分析し体系的にまとめている権左(2020)と山本(2021)を参照する。これらの整理に基づき、体育における直接民主主義について考察し、その重要性を提示する。 昭和33年以後を運動文化論前夜として回顧する丹下(1964)によると、1958年の学習指導要領は「戦後の民主体育の否定であった」とする。その後に、丹下は「運動文化論」を構築し始める。そこでは、近代スポーツが持つ課題へと眼差しを向け、既存の運動文化を絶対視しないという形で理論を構想していく。加えて、このような学びが決して個人で行われるのではなく、集団で運動文化に向かっていくことを重視する。こうした点に「運動文化論」における直接民主主義が垣間見える。つまり、丹下が意図した既存の運動文化を絶対視せず集団性を重視する姿勢には、既存の権力構造に対する抗いが見て取れる。