[09方-ポ-29] 国内一流野球投手の投球動作をモデルにした大学野球投手へのコーチング事例報告
縦断的な調査による質的要因と量的要因の関係
本研究の目的は、国内一流野球投手の投球動作をモデルにした大学生投手への投球動作指導が三次元的な投球動作の変容と選手の内在的な運動感覚の変容に与える影響を縦断的な調査によって事例的に検討することとした。本研究の対象者は、リーグ戦出場経験のない右投げ大学生投手1名とした。なお対象者に対して指導を実施する検者は、対象者が所属している同大学硬式野球部の指導者1名が含まれている。本研究は、2回の縦断的な三次元動作分析による投球動作の定量的データとインタビュー調査を実施することで選手・指導者の語りから定性的データを取得した。これら2つのデータを掛け合わせ、混合研究法による説明的順次デザインを用いて動作の変容に与えた要因を検討した。投球動作の測定期間および測定回数は、大学野球のリーグ戦を1周期と考え2021年X大学野球連盟主催春季リーグ戦終了時と2021年X大学野球連盟主催秋季リーグ戦開始時の2回の動作分析ならびにインタビュー調査を実施した。分析の手順は、動作分析を実施後、分析結果を選手・指導者へフィードバックし、その後インタビュー調査を実施した。第1回目の分析時では、選手・指導者共に「踏み込み脚着地以降体幹が大きく開く」ことについて、一致した課題を感じていた。動作分析の結果においても本研究の対象者は、踏み込み脚着地時に国内一流野球投手よりも上胴回旋角速度が337.4deg/sほど投球方向への速度が大きかった。また指導者は、対象者の胸郭周りの柔軟性が乏しく肩関節の外旋を大きく作れないと指摘していたが、対象者自身は課題点として挙げていなかった。そこで肩関節最大外旋角度をみてみると、本研究の対象者は国内一流野球投手よりも35.3degほど肩関節の外旋が小さい結果が得られた。本研究では選手の内在的な運動感覚と指導者の客観的な視覚情報ならびに動作分析による定量的データが一致するものとそうでないものが混在していた。