*中平 公士1 (1. スポーツ庁スポーツ戦略官)
セッション情報
本部企画シンポジウム
本部企画シンポジウム2/これからのユース・スポーツを考える―運動部活動の地域移行をめぐって―
2023年8月31日(木) 17:00 〜 19:00 寒梅館ホール (寒梅館1F・地下1階ハーディーホール)
コーディネーター:水上 博司(日本大学)
指定討論者:清水 紀宏(筑波大学)
日本のユース世代(中学生・高校生)のスポーツ環境は根本から見直す変革期を迎えている。2022(令和4)年6月、スポーツ庁は「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言について」を発表し、休日の活動から段階的に地域活動へ移行するという改革の方向性を示した。少子化による運動部への参加人数の減少、教師の業務負担の増大、学校と地域の協働の推進が表向きの改革理由とされる。しかしながら近年では、特に学校運動部は「ブラック企業」「ブラックバイト」「ブラックボランティア」の語りに連なって「ブラック部活」なる言葉でその負の側面が象徴的に描き出されてきた。勝利至上主義、行き過ぎた指導、体罰や暴力、教師のアンペイドワーク(無償労働)、過熱するスカウティングや越境入学などユース世代のスポーツライフスタイルにそぐわない「過剰さ」の数々が、ブラックなる語りで表されてきたのである。しかしながら、ここに潜む問題は、むしろ運動部活動をめぐる負の側面を、そもそもブラックだと感知しようとせず、長年にわたって見て見ぬふりをしてきた日本スポーツ界の肥大化、聖域化したインナーサークル(ムラ社会)にこそあるのではないか。
翻って学術研究コミュニティには、このことに対する自省は必要ないのだろうか。20年以上前、私は、本学会で学校運動部の実績とその因果を明らかにする研究成果を報告した発表者に対して、浅慮の知識でありながら過熱するスポーツ推薦制度の背後にある隠された内部構造に研究が切り込むべきではないかという質問をしたことがある。だが、その発表セッションが終わった際、会場にいた学会員から「タブーな部分なので研究は避けた方がよい」といった助言を受けたことがある。運動部活動の内部構造にまとわりつく聖域化した対象、見えても見えないふりをし、研究課題にしてはならないタブーなる既視感はなかったか。そこには、この問題が学会における研究者の存立構造や利害状況にもかかわる、まさに知識社会学的な課題であったことをも自省させられる構造が存在しているように思われる。
このような学術分野におけるある意味での「怠慢」性が、前述した問題の喫緊性を生じさせた背景にあるのではないかという反省も含め、私たちは今、ユース世代のスポーツ環境問題の何が見えていなければならないのか、さらに、ユース世代の子どもたちの目線の先には何が見えているのか、そして運動部活動の地域移行の関係者には、同様に何が見えているのか、そのことを見据えた展望について語り、議論しなければならないときであると考える。遅きに失した感は否めないが、これまで私たちが見てきた、また経験してきた運動部活動、また見ようとしなかった運動部活動の既視感を曝け出すことによって、私たち研究者がステークホルダーとともにここで一度ゼロベースまでリセットし、これからのより良いユース世代のスポーツ環境を考える延長線上に運動部の地域移行をめぐる課題を議論する必要があるのではなかろうか。本学会には、これからのユース世代のスポーツ環境に対して、科学的エビデンスを提示できるだけの十分な研究への将来資源が備わっているはずである。本企画シンポジウムでは、これからのユース世代のスポーツ環境を考えるために学会内外において共有すべき政策の方向性と研究知見を確認し、各専門領域を横断できるユース・スポーツのこれからを考える研究課題とそこから導かれる政策課題を共有するとともに、その解決の方向性について議論したい。
[本部企画-S2-2] 地域移行の失敗の歴史
1970年代の社会体育化と2000年前後の総合型クラブ連携を振り返る
*中澤 篤史1 (1. 早稲田大学)
*山口 香1 (1. 筑波大学)
*松田 雅彦1 (1. 大阪教育大学附属高等学校平野校舎)