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[競技スポーツ-A-03] バスケットボール指導者の有効な「権限の行使」に関する一考察(コーチング学)
A大学男子部におけるベンチメンバー選考の事例に着目して
集団スポーツの指導者は、戦術・戦略の立案やメンバー選考などに関して重要な決定権を持ち,それを用いてチームづくりを行う。この「権限の行使」(東海林、2014)は、多用されるとメンバーの自律性や創造性を阻害するが、的確に用いられるとチームワークがより強固になる。本研究では、20XX年全日本大学選手権で優勝したA大学男子バスケットボール部における大学選手権前のベンチメンバー選考を巡る出来事に着目し、大学バスケットボール指導者の有効な「権限の行使」について事例的に明らかにすることを目的とした。A大学監督のY氏に半構造化インタビューを実施し、その逐語録の精読を通して、テクストの作成・分析を行い、個別事例の様相を質的に解読した。当時のA大学には「(Y氏でも)教えられないくらいのセンス」があるが「そこに付随する姿勢がなく、精神的に未熟」な選手がいた。当初は彼を戦力として起用していたが、「駄目な時は本当にチームを下げてしまう言動を繰り返していた」ため、Y氏は「直接何回も話をした」「同期に『彼に声をかけろ』と伝え続けた」。しかし、彼の言動は変わらず、「周りが『あいつ無理です』となってきた」ため、「全体のことを考えて、戦力から外す」決断を下した。それにより、周囲の選手が「目標に向かって、自分のことに集中して良いんだ」となり、「チームとしてのまとまりが強く」なり、「結果として彼をベンチから外したことが優勝の要因となった」という語りが得られた。これらの語りから、指導者は権限を行使する際、1)「権限の行使」が適切か否かをチーム全体の状況を総合的に鑑みて判断すること、2)「権限の行使」までのプロセスを疎かにしないこと、3)「権限の行使」までに「quickコーチング」や「slowコーチング」(東海林、2014)など様々な手法を用い、周囲が納得できる状況を整えることの3点が重要であることが明らかとなった。