日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題B】人々の生活に根ざした多様なスポーツ文化をいかに醸成していくか

スポーツ文化研究部会【課題B】口頭発表①

2023年8月31日(木) 09:00 〜 09:59 RY303 (良心館3階RY303番教室)

座長:髙尾 尚平(日本福祉大学)

09:15 〜 09:29

[スポーツ文化-B-02] 生活に埋め込まれた「異質な身体」の集合が生み出す多様性(人)

スペイン・カタルーニャの「人間の塔」を事例に

*岩瀬 裕子1 (1. 東京都立大学)

本発表の目的は、スペイン・カタルーニャ州の祭礼において230年以上の歴史をもつ「人間の塔」と呼ばれる民俗芸能を事例に、そこで見られる協働を基盤とした「異質な身体」の集合性という視点から、身体文化の継承組織における多様性に関する可能性と課題について報告するものである。 「人間の塔」は大勢の人が密着することで最下部の物質的強度をあげ、その中央で人が人の肩の上を上り下りすることで塔を造るものである。「人間の塔」の継承集団は、居住地域をほぼ同一にする老若男女によって組織され、1年のうち9~10か月のあいだ、週2~3回の練習を繰り返しながら週末などに開かれる年30~40回の祭りに参加する。継承集団を束ねる「カタルーニャ州の人間の塔のグループコーディネーター」には、養成中のグループを含めて103の組織が登録されており、人々は自由な時間をつかって塔造りを楽しんでいる。 現在、もっとも高い塔は10段で11メートルを超える。「人間の塔は文化か、スポーツか」を巡って歴史的に議論されてきたが、とりわけ強豪グループのあいだでは高さを求めた争いが続いてきた。それに伴い、落下を防ぐための技術の向上や安全講習会などの実施が見られ、2018年シーズンの塔の落下率は2.39%と減少してきたとされる。 新型コロナウィルスの蔓延に伴い、2020年シーズンは活動が休止されてきたが、2022年4月20日からはマスク着用なしで祭りも練習も全面的に再開されている。 本発表は、超高齢化が進む日本において、「無縁社会」と表現されるような社会関係の希薄化や異世代の人々との共生、加えて、学校体育や大学スポーツ等において身体の共同性が生み出す可能性と危うさを思考する上で興味深い事例研究であると考えている。本発表に至る研究活動は、日本体育・スポーツ・健康学会スポーツ人類学専門領域の2019年度研究活動助成金により支援を頂いたものである。