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[スポーツ文化-B-04] 対人暴力被害と失感情症(心)
スポーツ指導場面での対人暴力被害者は様々な精神健康問題を呈する(Parent et al., 2021)。他方、今日の定性的研究では、アスリートの被害経験に対する沈黙が広く見受けられ(Kavanagh, 2014)、本邦でもアスリートが被害当時の気分や感情を詳細に語ることができない様相が示されており(伊藤・豊田, 2022)、これらは被害者が持つ内在特性の一つである可能性がある。こうした情動制御機能、反応の欠如は、児童虐待ではしばしば失感情症(Sifneos, 1973)の側面から論じられるが(福井ほか, 2010)、スポーツの文脈では未検討なままである。そこで本研究は、対人暴力被害に由来する失感情症の形成とその特徴を検討することを目的とした。アイブリッジ株式会社提供の18歳から24歳の調査モニター1,000名から中高運動部所属経験者をスクリーニングし、319名(M=21.61, SD=2.25)を分析対象とした本調査を実施した。下位尺度の内的整合性は十分な値を示した。被害リスク要因を共変量とした階層的重回帰分析の結果、心理的暴力被害が感情の同定困難と伝達困難、外的志向の全ての失感情症傾向を予測していた。対人暴力被害とPTSD症状を交絡因子とした傾向スコア分析の結果、全ての失感情症傾向は男性よりも女性の方が高く、競技の早期専門化群よりも非早期専門化群の方が感情の同定困難と伝達困難は高いことが推定された。これらの結果は、心理的暴力被害が及ぼす影響に関する知見を拡張するものである。さらに、児童虐待の性差や女性アスリートのメンタルヘルスに関する知見(e.g., Pascoe et al., 2022)にもあるように、被害経験を有し且つトラウマ症状を抱える女性は失感情症傾向が顕著である点、競技の早期専門化に関わらない、運動部の特異な文化性の関与を説明した点で、今後の被害者支援に資するものと考えられる。