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[03心-口-03] 自分に自信がないと訴えたアスリートが歩んだ成長のプロセス
複線径路・等至性アプローチを用いて質的に検討する試み
本研究では、「自分に自信がないと訴えたアスリートはどのような成長プロセスを辿るのか」というリサーチ・クエスチョンの下、複線径路・等至性アプローチ(以下、TEAと称す)を用いて、発展継承可能で有益な仮説的知見を導き出すことを目的とした。特に、TEAは、歴史的構造化ご招待と複線径路・等至性モデル(以下、TEMと称す)、発生の三層モデル(以下、TLMGと称す)を含む質的研究法であり、本研究においてアスリート個人の成長プロセスを質的に検討することに適していると考えられた。対象者は、日本代表としての経験がある球技系プロアスリート1名(20代女性)である。江田・中込(2012)は、競技体験の中での自分自身に対する振り返り(対話)の少なさを指摘している。そのような中で、悩みを通して自分自身と向き合うことは、競技力に見合った人格発達を可能としていく。「自信をなくした。ミスを連発してしまう。代表でチャンスを掴み取ろうという気持ちになれない。」という悩みから始まったメンタルサポートでは、1対1形式の傾聴を中心としたセッション(1回約60分、月1〜2回程度)を行った。会話の内容をTEMによって非可逆的時間の流れの中で可視化を行い、TLMGによって心理的変容を可視化した。これにより、非可逆的時間の背景で起こっているアスリートの心の奥にある心理的変容を読み取ることができる。そして、おおよそ二段階の心理的変容を遂げていることが導き出された。まず、一段階目では「自分の価値は周りからの評価によって決まる」という信念から、自己の内化に至ることが少なく、周りの評価に振り回されて不調に陥っていた。一方、二段階目では、自己との対話が促され、葛藤・迷走を繰り返しながら内化し「自分の軸」を模索していることが伺えた。本発表では、TEAによって可視化されたアスリートの内的な変容過程を図示しながら、議論を深めていきたい。