日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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体育哲学/口頭発表①

2023年9月1日(金) 09:00 〜 10:01 RY203 (良心館2階RY203番教室)

座長:髙尾 尚平(日本福祉大学)

09:00 〜 09:30

[00哲-口-01] 「生成としての身体教育」における教育学的思考の検討

*日向 悠太1 (1. 立教大学)

体育学領域では矢野智司による日本体育学会体育原理専門分科会での学会発表とその内容を踏まえた論文の掲載(矢野 1998a; 1998b)以降、ここでもたらされた「生成」論および「体験」概念がしばしば言及されている。とりわけ矢野の議論に繰り返し言及し、体育学的方法論として引き受けようとしている先行研究に、久保正秋による一連の研究がある。久保は身体教育やスポーツ運動を非–知に至る営みと考え、教育現実における有用性の次元において語りうるものであることを示した(久保 2019など)。これらの諸先行研究は、矢野の教育学的な知見を体育学のフィールドに落とし込み、体育学独自の概念から、矢野の概念を具体化し、矢野生成論の実践的価値を記付けることに成功したと言える。
 一方で先行研究においては矢野教育学に通底する教育学的思考に関する言及がまだ行われていない。矢野はいくらかの著作において、その序章を通じて一連の研究が教育学的思考を問うものであると示している(矢野2008; 2019;2022)。矢野が生成と発達、贈与と交換、歓待と戦争という二項の教育学について議論するのは、教育(学)における相容れない二項対立の非連続と連続を描き出すためであった。そのための思考方法としての「生成の論理」が矢野生成論に通底する学的思考なのであって、「生成としての教育」や「体験」という、矢野教育学の中で用いられている諸概念を取り出して検討するだけでは不十分である。
 先行研究は矢野生成論を体育学の中に根付かせることに成功しているものの、未だ後発の研究はほとんど現れていない。本研究は久保が根付かせた体育学と矢野教育学のバイパスを確かなものとし、かつ久保が着手しきれていない教育学的思考の観点について、矢野教育学が体育学にいかなる意義を示すことができるのかを提案するものである。