日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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体育哲学/口頭発表②

2023年9月1日(金) 13:15 〜 14:16 RY203 (良心館2階RY203番教室)

座長:髙橋 徹(岡山大学)

13:15 〜 13:45

[00哲-口-03] スポーツ実践の契機としての他者

スポーツ文化の捉え直しに向けたスポーツ実践者論

*岸川 昂平1 (1. 筑波大学大学院)

スポーツ文化の意義や価値が語られる時、それはオリンピック大会に結びつけられることが多い。しかし、スポーツ文化の意義や価値は、オリンピック大会にだけ存するのではなく、むしろそれは、オリンピック大会に縁遠い草の根のスポーツ実践者が存在することにあるのではないだろうか。例えば、フルマラソンへの挑戦に向けて日々ランニングに取り組む人や、週末に仲間とゴルフを楽しむ人がいる。このようなスポーツ実践者の存在を掬うことを抜きにして、スポーツ文化の意義や価値は見えてこないと考える。
 では、なぜ彼らはスポーツをするのだろうか。この問いに対して先行研究は、スポーツ実践者を能動的にスポーツ実践に向かう存在であると捉え、スポーツ実践者の有り様を示してきた。しかし、スポーツ実践者がランニングやゴルフを始める契機は、必ずしも能動的であるとは限らない。例えば誰かに誘われて始める場合もあることからすれば、彼らのスポーツ実践の契機は、受動的であるとさえ言える。したがって、先行研究には、スポーツ実践者のスポーツ実践の契機の検討として不十分な点がある。
 以上を踏まえて、本発表の目的は、スポーツ実践者のスポーツ実践の契機に着目し、そこに何があるのかを明らかにすることである。そうすることによって、スポーツ文化を捉え直すための1つの視座を得ることができると考える。本発表では特に、「誕生」という概念を援用して考察を進めていく。人間が誕生するのには親を必要とするように、スポーツ実践者がスポーツ実践を始めるその契機にも、何らかの他者を必要とするだろう。ただし、他者がいれば必ずスポーツを実践し始めるわけでもないため、スポーツ実践の契機は、偶然の様相を呈する謎に満ちたものである。本発表を通して、他者の存在が必要条件であると考えられるスポーツ実践の契機の内実を掘り下げてみたい。