日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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体育哲学/口頭発表④

2023年9月1日(金) 15:25 〜 16:57 RY203 (良心館2階RY203番教室)

座長:佐々木 究(京都産業大学)

15:25 〜 15:55

[00哲-口-07] メルクリアリス研究の現在

*根本 想1 (1. 育英大学)

16世紀イタリアの医師・人文主義者であったヒエロニムス・メルクリアリス(1530-1606;以下「メルクリアリス」)の主著“De Arte Gymnastica”(初版1569年;以下「“DAG”」)は、体操術について体系的にまとめられた全6巻からなる「古典」であり、体育思想史研究において重要な研究対象として位置づけられてきた。しかしながら、国内においては“DAG”の内容を詳細に紹介した高橋(1979,2003)による先駆的な研究を除くとほとんど手つかずの状況にあり、邦訳については部分訳すらなされていない。
 一方、国外では仏語の対訳が付された“DAG”第1巻の校訂版(2006)や英語による全訳が収録された“DAG”全6巻の校訂版(2008)が出版されている。また、メルクリアリスの没後400周年を記念して開催された国際シンポジウムの論文集も刊行されている(Arcangeli and Nutton eds, 2008)。さらに、2015年にはKavvadia(2015)が“DAG”を主題とした博士論文をEuropean University Instituteに提出し学位を取得している。このように国外では、没後400年や仏語による部分訳、英語による全訳を契機として医学関連領域を中心にメルクリアリス研究の進展が窺える状況にある。
 このような国外での研究状況に鑑みると、国内でのメルクリアリス研究の進展を阻んでいる一つの要因は、日本語による翻訳および注釈の不在にあると考えられる。そこで、本発表は、上述した国外での先行研究の動向を精査して、今後のメルクリアリス研究の展望について明らかにすることを目的とする。本発表によって、“DAG”のラテン語原典からの日本語による全訳および注釈の完成に向けた作業も進展していくことが見込まれる。