[09方-ポ-44] 柔道形競技におけるリモート指導の試み
2023 SEA Games 柔道形競技選手に対する指導の一例
本研究は、海外に在住する柔道形競技の選手に対するリモート指導の一例に関する考察である。2020年から続くCOVID-19感染症のパンデミックの影響で、多くの学校や企業では、リモートでの授業や勤務を余儀なくされた。一方で、オンラインやオンデマンドによる授業や会議が一気に普及し、リモートによる情報伝達が新たな形態として発展、定着した側面もある。柔道に限らず、各種競技の指導の基本は、選手と指導者が場と時を同じくし対面で行うものである。柔道の形競技においても即時のフィードバックが可能である対面による指導が基本となるが、形競技では、他の審美系競技と同じく、選手と指導者が動画視聴によるフィードバックをもとに動作を修正する作業が必須となる。今回、第32回東南アジア競技大会(通称・SEA Games)柔道競技のうち、Women’s Ju-no-Kataのカンボジア代表選手に対し、対面に加え、オンライン環境とICT機器を使用したリモート指導を実施した。指導にあたり、まず対面により、形の動作の各々に関する意義を伝達した。柔道の修行者は、動作だけでなく形の一挙手一投足に含まれる理合いを理解する必要があるが、日本語を母語としない場合、動作を模倣するのみで動作の意義を理解していない場合がある。本例においては、まず対面指導において選手と指導者で共通理解すべき事項を確認、指導の足がかりとした。その後、対面指導が不可能である期間は、動画の送受信によるリモート指導を行った。選手は、演技動画を審査員席と同じ角度から撮影・送信し、それを指導者が視聴し修正点を文章で指摘するほか、動画編集ソフトを用い動画上の動作に合わせた字幕の挿入によるフィードバックを行った。選手はそれを視聴し、動作の細かな修正作業を行い、このやり取りを反復し大会を迎えた。本発表では、この試みから導かれた利点と問題点について紹介する。