日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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ポスター発表(専門領域別)

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体育心理学(偶数演題)/ポスター発表

2023年9月1日(金) 11:00 〜 12:00 RY205 (良心館2階RY205番教室)

[03心-ポ-30] スポーツ指導現場における体罰発生に関する先行研究の質的検討

体罰が正当化される心理的メカニズムに着目して

*伊藤 麻由美1、豊田 則成2 (1. 帝塚山大学、2. びわこ成蹊スポーツ大学)


本研究は、スポーツ指導現場における体罰についての先行研究を質的に分析し、心理的メカニズムを視覚化することで、体罰防止へ向けての課題や心理的支援を検討することを目的とする。これまで体罰撲滅へ向けて取り組みが進められているが、依然として体罰が報告されており(文部科学省、2021)、今後どのような対策を講じるべきか検討する必要があると考えられる。また、体罰については社会的には暴力とされる行為が、スポーツ指導現場では指導の一環として正当化されているという現状にある。そこで、本研究では「なぜ体罰はスポーツ現場にはびこり続けるのか」というリサーチ・クエスチョンを設定し、体罰の発生や認識に関する先行研究を概観し、その内容を質的統合法(KJ法)を用いて視覚化を試みた。
まず、CiNii(国立情報学研究所)を用いて、「体罰」「スポーツor部活動」「発生要因or発生or要因」のキーワードを組み合わせて検索を行なった。検索された文献のうち、学術雑誌または大学紀要に掲載されているものを分析対象とした。また、対象文献を体罰発生の要因、選手の認識、指導者の認識と選手との関係性に絞り、段階的に分析することで、理論の生成・修正・飽和を目指した。分析手順は、①文献の内容から体罰の発生や正当化についての記述を抜き出し、ラベルを作成し、②ラベル広げ、ラベル集め、表札づくりを繰り返し、③最終的に残ったラベルの内容を端的に表すシンボルマークをつけ、④それらの関係性を説明する関係記号と添え言葉を配置し、空間配置図を作成した。
分析の結果、スポーツ指導現場では保護者要因と法的要因の影響を受けながら、勝利を目指すことへの共通認識が強く根付いており、それらが体罰を正当化する基盤となっていた。さらに、指導実績が残ることで、指導者と選手の関係性において体罰を正当化する連鎖が生じ、体罰がはびこり続けていることが明らかとなった。