日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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ポスター発表(専門領域別)

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バイオメカニクス/ポスター発表

2023年9月1日(金) 13:30 〜 14:30 RY205 (良心館2階RY205番教室)

[05バ-ポ-07] 二足立ちラットにおける予測的姿勢制御

小脳虫部の役割と数理シミュレーション

*鴻巣 暁1、柳原 大1 (1. 東京大学)


日常生活やスポーツにおける素早く円滑な運動の遂行には、身体へ加わる外乱や神経伝達の遅延に起因する内乱に対して予測的に姿勢を制御することが重要となる。本研究では、外乱に対する予測的姿勢制御の運動学的・神経生理学的メカニズムを明らかにすることを目的として、ラットにおける姿勢制御課題の実験と数理シミュレーションを実施した。実験は、後肢により直立立位姿勢を維持するラット(Wistar系、雄性)に光による条件付け刺激と床傾斜の外乱をセットで与えるパラダイムを用いて行い、健常群、障害群(小脳虫部Ⅳ-Ⅷ葉を標的とした吸引除去手術を測定の6日前に実施した)および偽手術群にこの外乱試行を繰り返し経験させた。学習の初期段階において、立位姿勢および外乱による姿勢変動は3群間で合致し、姿勢変動のメカニクスは立位のヒトに床傾斜外乱を与えた場合の動態とも概ね合致した。しかし、姿勢変動の試行間変化を基に算出した「学習速度」は、障害群において健常群および偽手術群よりも小さく(時定数が偽手術群の35%前後)、障害領域のサイズと相関した。シミュレーション研究では、ラットの直立姿勢制御を「モデル予測制御」を用いた倒立振子によりモデル化した。「モデル予測制御」は、一定時間未来までの時間区間(予測ホライズン)において目標軌道に自身の軌道が一致するよう運動出力を決定する制御方法である。健常群の重心角度データとシミュレーションが一致するよう制御パラメータを最適化したところ、予測ホライズンは実験パラダイムにおける条件付け刺激から傾斜外乱までの時間と概ね一致した。以上の結果から、外乱に対する予測的姿勢制御に小脳虫部が中心的な役割を果たすこと、モデル予測制御と同様の制御則を実現する神経メカニズムが中枢神経系に備わることが示唆された。