第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P02

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-MT-02-5] 人工股関節置換術後早期における歩行動揺性と身体機能との関連性

加速度計を用いた検討

廣瀬和仁1, 板東正記1, 森田伸1, 田仲勝一1, 伊藤康弘1, 藤岡修司1, 小林裕生1, 井窪文耶1, 加地良雄1,2, 森正樹1,2, 西村英樹1,2, 山口幸之助1,2, 岩田憲2, 高田成基2, 山本哲司2 (1.香川大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.香川大学医学部整形外科)

キーワード:人工股関節置換術, 歩行異常, 身体機能

【はじめに】

人工股関節置換術(以下THA)後は,短い介入期間において,歩行が自立しても歩容上の問題点が残存する報告が多い。歩容評価には,観察や動作解析装置による分析の他,体幹加速度波形を用いた歩行異常の定量化が精度の高い評価方法として普及してきている。加速度計を用いた代表的な歩行評価であるroot mean square(以下RMS)は,質的な客観的指標として扱われており,RMS値が大きい程,動揺性が大きい事を示す。動作解析装置など設置型の機材と比較し,安価で簡便,測定場所を選ぶ必要がないという点で優れた利点を有しているが,定量化された指標は,健常若年者や高齢者,変形性関節症などを対象とした比較検討が多い。THA後の歩行の報告は少なく,機能障害との関連性や,経時的変化など効果判定への発展が必要であると考える。本研究の目的は,THA前後の歩行動揺性の変化を加速度計にて評価し,術後の動揺性に影響を及ぼす身体機能との関連を明らかにする事である。

【方法】

対象は変形性股関節症に対してTHAを施行された15例(平均年齢64.7±8.0歳,全例女性,BMI25.1±2.1)とした。解析対象は,術前・術後2週時の15m平地環境における安定した10歩行周期とし,歩行条件は独歩,快適速度とした。記録装置には3軸加速度計(MA-3-04Acマイクロストーン社製)を使用した。先行研究に従い,加速度計装着部位は第3腰椎棘突起部付近,サンプリング周波数200Hz,動揺性の評価として加速度値のRMS値を算出した。またRMS値は歩行速度の二乗で除し,歩行速度の影響を調整した。各動作軸におけるRMS値について術前後の比較を行った。年齢,BMI,および術後2週時の両側股関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転),両側股関節外転・膝関節伸展筋力,歩行時Visual Analog Scale(以下VAS)を測定し,術後2週時の加速度データとの関連を検討した。統計学的検定はR V2.1.0を使用し,加速度データの術前後の比較をWilcoxonの符号付順位和検定,加速度データと各変数の関連をSpearman順位相関係数にて評価した。有意水準はいずれも5%とした。

【結果】

術前RMS値は側方2.2(1.1-1.9),垂直2.2(1.3-1.9),前後2.2(1.4-1.8),術後RMS値は側方1.5(1.0-1.7),垂直1.7(1.3-1.7),前後1.6(1.0-1.6)となり,側方RMS値のみ有意差を認めた(p=0.02)。術後2週時の動揺性と身体機能の関連は,上下・前後RMS値と術側股関節伸展可動域のみ有意な相関を認めた(上下r=-0.64,p=0.02,前後r=-0.577,p=0.01)。

【結論】

術後,側方動揺性のみ改善が認められた。改善が得られなかった上下・前後動揺性に関連を認めた股関節伸展可動域は,効率的な重心移動に影響を及ぼす事が報告されている。その減少は身体重心位置が高くなる要因であり,健側下肢による前方加速度増の代償を生む要因である為,動揺性に影響を与えている事が考えられる。THA術後の股関節伸展可動域は歩行動揺性に影響を及ぼす要因である事が示唆された。