第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P12

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-12-3] 自己の運動観察により車椅子駆動能力が改善した重度パーキンソン病患者の1症例

岩沢達也, 伊沢真, 桜井和美, 須江慶太 (鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院)

キーワード:運動観察, 車椅子駆動, 重度パーキンソン病

【はじめに,目的】

パーキンソン病(以下PD)は緩徐進行型の全身疾患であり,重度になるとその症状は複雑化し,介入・効果判定をすることに難渋する。PDの理学療法を進めていく上で外的キューの活用があるが,その効果は持続しにくい。近年,運動学習促進において運動観察が注目されており,PDの小刻み歩行,動作緩慢に対する治療に活用されている。しかし,車椅子駆動に関して,その有効性を示す報告はない。今回,車椅子駆動の改善が主訴として聞かれた重度PD患者に対し,自己の運動観察を行い,一定の運動学習効果が得られたので,報告する。


【方法】

症例は81歳女性。PD発症後11年。Hoehn&YahrIV。MDS-UPDRS90点。FIM61/126点。日常生活の移動手段は車いす。MMSE26/30点。

駆動場面では,直進できず右へ傾き,狭所や方向転換時には運動の狭小化,運動の切り替え困難を呈し,動作全般で体幹左側屈,右上肢の不使用が認められた。

治療効果は,MDS-UPDRSの結果より得たON時間帯で,シングルケースデザインのA-Bデザインを用いて検証した。A期(30日間)は鏡,口頭,徒手による外的キューを用い,B期(30日間)は鏡,口頭,徒手による外的キューに加えiPadを用いた自己の運動観察を用い,車椅子駆動練習を行った。B期におけるiPadの活用方法は,駆動場面にて修正が出来ない際に,随時治療者が動画撮影を行い症例に提示した。効果判定は,自室-トイレ移動時間(距離25m,方向転換回数5回)とし,計測は治療施行前に行った。


【結果】

計測はそれぞれ1回の結果である。

介入前の自室-トイレ移動時間は12分34秒,A期終了時は11分19秒,B期終了時は1分58秒と大幅な改善が認められた。また,A期,B期共に即時的な効果は得られた。特にB期では,運動の狭小化・切り替え困難が解消され,体幹アライメント修正,右上肢の運動の大きさが向上した。本人からは「自分の身体がどうなっているのかよく分かってよかった」と話が聞かれた。

介入期間中,A期,B期共にわずかな薬物療法の変更があったが,症状の大きな変動は認めなかった。


【結論】

運動観察により,どのようにしたら失敗し,修正できるかといった自己の内省との照合過程が含まれ,運動イメージ改善に関与する。また,動作認知や運動プログラミングといった運動前野の賦活が生じることが報告されており,一定の運動学習効果が得られたと考える。そして,iPadという携帯性の良さから,生活場面で即時的にキューを用いることができたことも,改善に至った要因と考える。

今回はシングルケースデザインであったため,他のPD患者に対して今回の結果が般化できるかは不明である。また,運動観察を行う頻度が規定されていないことや,介入期間中の薬物療法の変更がみられたこと等の研究上の脅威が存在してしまったことは否めない。以上のことを踏まえ,今後は症例数を増やし,有効性について検討していきたい。