第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P02

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-02-2] 化学療法中の食道がん患者における骨格筋電気刺激の有効性の検討

シングルケーススタディ

小玉岳, 会津直樹, 佐藤房郎 (東北大学病院リハビリテーション部)

Keywords:化学療法, 骨格筋電気刺激, 廃用症候群

【はじめに,目的】

がんリハビリテーションガイドラインにおいて化学療法治療中の患者に対する運動療法の有効性が示されている。しかし,化学療法により副作用を生じると十分な理学療法が施行できないことが多く,廃用症候群を呈するリスクが高くなる。骨格筋電気刺激は主に整形外科疾患患者の術後や内科疾患患者の筋力増強や運動耐容能向上等の効果が報告されているが,化学療法中の患者に対しても応用できる可能性が考えられた。そこで今回,全身倦怠感や動作時の息切れを有する担癌状態の食道がん患者1症例に対して,化学療法中の運動機能の維持,改善を目的とした骨格筋電気刺激を施行したので報告する。

【方法】

症例は食道がん(stageIII cT3N2M0)と診断され食道部分摘出後,遺残に対し追加放射線化学療法を施行した男性患者1例である。介入期間は化学療法1クール目(CDDP+5-FU投与5日間,休止期間3週間)の4週間とした。理学療法としては通常の四肢体幹ストレッチや呼吸体操等のコンディショニングに加えて,骨格筋電気刺激を施行した。骨格筋電気刺激は安静臥位で行い,AUTO Tens PRO Rehabili UnitII(ホーマーイオン社)のベルト電極式骨格筋刺激法を使用し,大腿と下腿の筋に対し刺激時間20分,周波数20Hz,刺激強度は終了後に苦痛を伴わないよう調整して施行した。理学療法評価は膝関節伸展筋力(ハンドヘルドダイナモメーター),下腿最大周径,6分間歩行試験による連続歩行距離とその際の下肢疲労感に対する修正Borg scaleを,また蛋白代謝指標として窒素バランスをそれぞれ4週間の介入前後に測定した。

【結果】

介入前後で膝関節伸展筋力は0.56kgf/kgから0.55kgf/kg,下腿最大周径は31cmから29.5cm,6分間歩行距離は356mから399mとなり,下肢疲労の修正Borg scaleは「5」と同レベルであった。また,活動に伴う息切れや倦怠感は減少し自主歩行頻度が増加した。さらに,窒素バランスは負から正への傾向を示していた。

【結論】

本症例は担癌状態であり介入以前より息切れを伴う不活動と体重減少を認め運動療法には非積極的であった。加えて,化学療法によりさらなる身体活動の制限が予想された。結果から,介入期間内で膝関節伸展筋力や下腿筋量は低下したが運動耐容能が向上していた。これは骨格筋電気刺激が筋持久力の変化に影響していた可能性がある。また,窒素バランスの結果より,骨格筋電気刺激が蛋白同化を促している可能性が示唆され,下腿周径の減少が骨格筋萎縮の程度を反映していないことも考えられる。さらに,自覚症状の軽減は長期治療に対するモチベーションの向上につながったと考えている。今回得られた結果から,本症例のような廃用症候群が予測され尚且つ倦怠感などにより運動抵抗性が強い化学療法中がん患者においては安静臥位で施行できる骨格筋刺激が骨格筋機能維持,改善としての役割を果たし,理学療法介入の選択肢の一つになり得ることが期待できた。