[O-DM-02-3] 血液がん患者の運動機能および身体・精神症状に対する低強度運動療法の効果
Keywords:血液がん, 低強度運動療法, 運動機能
【はじめに,目的】
血液がん患者は,化学療法や放射線療法が治療の主体であるため,その有害事象である嘔気や嘔吐,倦怠感などが運動機能の低下に影響をおよぼす。そして,これら有害事象が顕著な場合は,がんのリハビリテーションガイドラインで推奨されている中等度~高強度の運動療法を適用することは困難なことが多い。加えて,不安や抑うつといった精神心理面の問題が顕在化するとリハビリテーション(リハビリ)の進行の妨げになる。そのため,このようなケースに対しては,低強度運動療法を適用し,運動機能や日常生活動作能力(Activity of Daily Living:ADL)の維持・改善に努めているが,その効果についてはこれまで明らかになっていない。そこで本研究では,血液がん患者を対象に筋機能,運動機能,ADL,倦怠感,不安・抑うつ,生活の質(Quality of life:QOL)といった多面的評価を行い,低強度運動療法の介入前後でこれらの評価結果の変化を検討した。
【方法】
対象は2015年8月~2016年8月の期間に長崎大学病院に入院し,リハビリを行った血液がん患者37名(平均年齢66.6±9.9歳,男性18名,女性19名)である。対象者に対しては,カルボーネン法により算出した上限心拍数の40%以下の負荷強度で,歩行・基本動作練習を主体とした低強度運動療法を20~40分,週3~5回実施した。そして,リハビリ開始時と退院時に,筋機能の評価として骨格筋量,握力,膝伸展筋力を,運動機能の評価として10m歩行テスト,Timed Up and Go Test(TUG)を計測した。また,ADLにはFunctional Independence Measure(FIM)を,倦怠感にはCancer Fatigue Scale(CFS)を,不安・抑うつにはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を,QOLにはEORTC QLQ c-30を用いて評価した。統計解析には対応のあるt検定を適用し,各項目をリハビリ開始時と退院時で比較した。なお,危険率は5%未満とした。
【結果】
骨格筋量はリハビリ開始時に比べ退院時は有意に低下していたが,握力,膝伸展筋力においてはリハビリ開始時と退院時で有意差は認められなかった。一方,10m歩行テスト,TUG,ADL,倦怠感,不安・抑うつ,QOLについてはすべてリハビリ開始時に比べ退院時は有意な改善が認められた。
【結論】
今回,血液がん患者に対して低強度運動療法を実施した結果,骨格筋量は減少するものの,筋力は維持でき,運動機能,ADL,不安・抑うつ,倦怠感,QOLについてはすべて改善が認められた。つまり,低強度運動療法によっても血液がん患者の身体・精神症状は改善する可能性があり,中等度~高強度の運動療法が適用できないケースに対して有用であることが示唆された。ただ,本研究では対照群が設定できていないため,今回の結果が低強度運動療法の直接的効果とは断言できず,この点は本研究の限界である。また,骨格筋量が減少したにも関わらず,運動機能が改善した要因についても明らかにできておらず,今後検討していく必要がある。
血液がん患者は,化学療法や放射線療法が治療の主体であるため,その有害事象である嘔気や嘔吐,倦怠感などが運動機能の低下に影響をおよぼす。そして,これら有害事象が顕著な場合は,がんのリハビリテーションガイドラインで推奨されている中等度~高強度の運動療法を適用することは困難なことが多い。加えて,不安や抑うつといった精神心理面の問題が顕在化するとリハビリテーション(リハビリ)の進行の妨げになる。そのため,このようなケースに対しては,低強度運動療法を適用し,運動機能や日常生活動作能力(Activity of Daily Living:ADL)の維持・改善に努めているが,その効果についてはこれまで明らかになっていない。そこで本研究では,血液がん患者を対象に筋機能,運動機能,ADL,倦怠感,不安・抑うつ,生活の質(Quality of life:QOL)といった多面的評価を行い,低強度運動療法の介入前後でこれらの評価結果の変化を検討した。
【方法】
対象は2015年8月~2016年8月の期間に長崎大学病院に入院し,リハビリを行った血液がん患者37名(平均年齢66.6±9.9歳,男性18名,女性19名)である。対象者に対しては,カルボーネン法により算出した上限心拍数の40%以下の負荷強度で,歩行・基本動作練習を主体とした低強度運動療法を20~40分,週3~5回実施した。そして,リハビリ開始時と退院時に,筋機能の評価として骨格筋量,握力,膝伸展筋力を,運動機能の評価として10m歩行テスト,Timed Up and Go Test(TUG)を計測した。また,ADLにはFunctional Independence Measure(FIM)を,倦怠感にはCancer Fatigue Scale(CFS)を,不安・抑うつにはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を,QOLにはEORTC QLQ c-30を用いて評価した。統計解析には対応のあるt検定を適用し,各項目をリハビリ開始時と退院時で比較した。なお,危険率は5%未満とした。
【結果】
骨格筋量はリハビリ開始時に比べ退院時は有意に低下していたが,握力,膝伸展筋力においてはリハビリ開始時と退院時で有意差は認められなかった。一方,10m歩行テスト,TUG,ADL,倦怠感,不安・抑うつ,QOLについてはすべてリハビリ開始時に比べ退院時は有意な改善が認められた。
【結論】
今回,血液がん患者に対して低強度運動療法を実施した結果,骨格筋量は減少するものの,筋力は維持でき,運動機能,ADL,不安・抑うつ,倦怠感,QOLについてはすべて改善が認められた。つまり,低強度運動療法によっても血液がん患者の身体・精神症状は改善する可能性があり,中等度~高強度の運動療法が適用できないケースに対して有用であることが示唆された。ただ,本研究では対照群が設定できていないため,今回の結果が低強度運動療法の直接的効果とは断言できず,この点は本研究の限界である。また,骨格筋量が減少したにも関わらず,運動機能が改善した要因についても明らかにできておらず,今後検討していく必要がある。