第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » 口述発表

[O-NV-01] 口述演題(神経)01

2017年5月12日(金) 11:00 〜 12:00 B3会場 (東京ベイ幕張ホール No. 6)

座長:保苅 吉秀(順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室)

日本神経理学療法学会

[O-NV-01-3] 歩行補助具T-Supportを用いた長下肢装具膝関節の早期固定解除による歩行因子への影響

中谷 知生1, 田口 潤智1, 笹岡 保典1, 堤 万佐子1, 藤本 康浩2 (1.医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院, 2.川村義肢株式会社)

キーワード:脳卒中, 歩行, 長下肢装具

【はじめに,目的】

脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングで長下肢装具(以下KAFO)を使用する利点は膝関節固定により運動の難易度調整が可能となることである。しかしどの段階で固定を解除するかについて一定の見解は得られていない。当院では固定解除の検討の際に,川村義肢株式会社製歩行補助具T-Support(以下TS)を用いることが多い。TSは弾性バンドの牽引により装用下肢の膝関節伸展モーメントを増大させる効果があるため,徒手的な介助に比べ立脚期での膝関節伸展位保持が容易となり,早期の膝関節固定解除が可能となることが多い。本研究の目的は,KAFOの膝関節固定を解除した歩行トレーニング時にTSを併用することが歩行因子に及ぼす影響を検証することである。




【方法】

対象は当院入院中の初発脳卒中片麻痺患者で,本人用のKAFOを用い麻痺側膝関節を固定した介助歩行トレーニングを行っている者10名で,内訳は平均年齢73.9±5.3歳,男性6名・女性4名,麻痺側は左5名・右5名,Brunnstrom Recovery StageはIIが5名,IIIが4名,IVが1名,発症からの経過日数は61.9±28.7日であった。評価は膝関節を固定した状態での後方介助歩行(以下膝固定),膝関節の固定を解除し麻痺側下肢をTSで牽引する後方介助歩行(以下TS固定解除),膝関節の固定を解除し麻痺側下肢を徒手的に牽引する後方介助歩行(以下徒手固定解除)の3条件の歩行因子を比較した。計測はパシフィックサプライ社製ゲイトジャッジシステムを使用し,荷重応答期の踵接地の強さをあらわすとされる下肢装具に発生する底屈制動モーメント(ファーストピーク:以下FP),および麻痺側と非麻痺側下肢の立脚時間の対称性(以下立脚対称性)を比較した。立脚対称性は非麻痺側平均立脚時間を麻痺側平均立脚時間で除した値とした。統計学的解析は多重比較(Steel-Dwass法)を用い,危険率は5%とした。




【結果】

膝固定/TS固定解除/徒手固定解除の順に,FP値は11.7/7.8/5.5Nmとなり膝固定は他の2群に比べ,TS固定解除は徒手固定解除に比べ高いFP値を示した。立脚対称性は1.18/1.20/1.43となり膝固定とTS固定解除は徒手固定解除に比べ高い立脚対称性を示した。




【結論】

KAFOを使用する症例では装具による固定を解除することで立脚期の膝関節伸展モーメントの産生が不十分となる。介助者が大腿近位部を牽引する徒手固定解除では初期接地時より膝関節が屈曲位となる傾向にあり,初期接地時の踵接地および立脚中期の膝伸展保持が困難となり,FP値・立脚対称性が低下した。これに対しTS固定解除では弾性バンドが下腿部を牽引することで徒手よりも強い膝関節伸展モーメントが発生し,伸展位保持が促された結果,FP値・立脚対称性が向上したものと考える。今回の検証結果から,KAFOを用いた歩行トレーニングでTSを用いることは,立脚期の下肢機能を保証しながら早期の膝関節の固定解除を可能とするアプローチであることが示唆された。