第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-04] ポスター(基礎)P04

2017年5月12日(金) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-04-2] フィードバック遅れ時間を用いた片足立位保持時の関節運動の制御戦略の検討

井原 拓哉1,2, 羽田 清貴3, 阿南 雅也4, 杉木 知武3, 新小田 幸一5, 川嶌 眞之3, 川嶌 眞人3 (1.かわしまクリニック, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期, 3.川嶌整形外科病院, 4.大分大学福祉健康科学部理学療法コース, 5.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門)

キーワード:フィードバック遅れ時間, 片脚立位, 変形性股関節症

【はじめに,目的】

動作・姿勢保持の制御戦略を把握するには,関節制御の時間的構造の理解が重要である。フラクタル解析の一種であるDetrended Fluctuation analysis(以下DFA)は,データ変動の時間的構造を定量化する解析法である。時系列信号の中には時間領域によってその性質が持続性相関から反持続性相関へと変化するものがあり,この制御様式が変化する時間(フィードバック遅れ時間)を検討することは,関節運動の制御戦略の理解の一助となると考えられる。そこで本研究は,まず片脚立位保持中の関節角加速度のフィードバック遅れ時間の信頼性と制御戦略を把握するための妥当性を検討し,次に変形性股関節症患者の股関節運動をフィードバック遅れ時間を加味して検討した。


【方法】

健常若年者10人20脚と両側性変形性股関節症患者Aの末期側の1脚を被験肢とした。課題動作には片脚立位を採用し,両脚起立姿勢から,片側の股関節を屈曲し,10[s]以上同一姿勢を保持するよう指示した。身体各標点に赤外線反射マーカを貼付し,サンプリング周波数を100[Hz]とした赤外線カメラ8台からなる三次元動作解析システムVICON MX(Vicon Motion Systems社製)を用いて動作中の身体各標点座標を取得した。取得したデータを基に,腰部側屈と立脚側の股関節内外転,足関節回内外運動の角加速度の時系列データを算出した。次にMATLAB 2016a(MathWorks社製)を用いて時系列データの分散,最大変化量,平均周波数を算出した後,時系列データに対してDFAを実施し,作成された全時間領域のデータを用いて制御様式が変化するまでに要した時間をフィードバック遅れ時間として算出した。課題動作は3回実施した。信頼性の検討には級内相関係数ICC(1,3)を用い,妥当性は,フィードバック遅れ時間と分散,最大変化量,平均周波数との相関係数を検討した。なお,統計学的解析にはSPSS Statistics 17.0(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,有意水準は5%未満に設定した。


【結果】

フィードバック遅れ時間のICC(1,3)は,0.76-0.85であった。すべての運動でフィードバック遅れ時間は平均周波数のみと有意な負の相関関係を認めた(p<0.05)。また患者Aの股関節は,フィードバック遅れ時間と分散は低値を示し,最大変化量と平均周波数は高値を示した。


【結論】

ICCの結果から,片脚立位動作中の関節運動のフィードバック遅れ時間は,十分な被験者内信頼性を有していると考えられた。各関節運動のフィードバック遅れ時間は平均周波数と強い負の相関を示し,十分な併存妥当性が確認された。

フィードバック遅れ時間が短いことは,その関節運動が時間的構造の観点から短時間で系を安定させようとしていると解釈できる。従って,患者Aの股関節は,片脚立位を通じて股関節を安定させようと常に制御しているが,不十分であり時に大きな関節角加速度を生み出してしまっている可能性が示唆された。