[P-KS-05-2] ヒト頸髄介在ニューロン系への前庭入力の収束
Keywords:頸髄介在ニューロン, 前庭系, 錐体路
【はじめに,目的】
ヒト空間的促通試験を用いた研究により,錐体路興奮を上肢運動ニューロンに中継する頸髄介在ニューロン(IN)系の存在が示唆されている(Pierrot-Deseilligny 2002)。しかしながら,IN系に対し前庭神経系の入力が収束しているのか,今のところ不明である。そこで,本研究は,ガルバニック前庭刺激(GVS)が錐体路と末梢神経のコンバインド刺激による筋電図の空間的促通効果に影響を与えるのか,検討を加えた。
【方法】
実験は健常成人男性7名を対象にした。被験者は椅子に座り,前腕は肘関節60度屈曲位にて固定された。筋電図は,右上腕二頭筋(BB)および第一背側骨間筋(FDI)から単極誘導法にて記録された。被験者がBBの弱い持続収縮(最大力の3%程度)を維持している最中,左右の乳様突起部間にGVS(1.5~2.0 mA)を行った。その間に,1)対側の一次運動野への経頭蓋的磁気刺激(TMS,活動時運動閾値の1.1~1.36倍),2)同側の尺骨神経への電気刺激(FDIの運動閾値の0.75倍)ならびに3)TMSと尺骨神経刺激のコンバインド刺激(刺激間間隔10ミリ秒,尺骨神経刺激先行)を実施した。右GVS電極の極性により,陽極ならびに陰極GVS条件を設定した。対照条件として,GVSを行っていない時に上記1~3)の刺激を行った。空間的促通効果を定量化するため,単独TMSによる運動誘発電位(MEP)と単独尺骨神経刺激効果の代数和(SUM)を計算した。空間的促通効果の振幅は,コンバインド刺激時MEP振幅のSUMに対する百分率として表した。
【結果】
対照,陽極および陰極条件において,コンバインド刺激によるMEP振幅は,SUMと比して,有意に増大した(p<0.01)。その促通量(空間的促通効果)は,対照条件と比べて,陽極ならびに陰極GVS条件で有意に大きかった(p<0.05)。しかしながら,陽極ならびに陰極GVS条件間では,空間的促通効果に有意な違いを認めなかった(p=0.898)。
【結論】
本研究において,錐体路と尺骨神経のコンバインド刺激による空間的促通効果が,GVSによって増大することが明らかとなった。コンバインド刺激の時間間隔(10ミリ秒),尺骨神経の伝導速度(54.3~83.3 m/s,Macefield, et al., 1989)ならびに尺骨神経の刺激強度(運動閾値の0.75倍)に基づけば,筋に由来した神経入力(例えばgroup Ia線維)と錐体路入力を共通して受ける頸髄IN系が,GVSにより促通されたと考えられる。サルGVSは,一次前庭神経線維の持続的な発火活動を修飾すると報告されている(Goldberg, et al., 1984)。従って,本研究の知見は,前庭系からの入力がヒトの頸髄IN系に収束していることを示唆する。
ヒト空間的促通試験を用いた研究により,錐体路興奮を上肢運動ニューロンに中継する頸髄介在ニューロン(IN)系の存在が示唆されている(Pierrot-Deseilligny 2002)。しかしながら,IN系に対し前庭神経系の入力が収束しているのか,今のところ不明である。そこで,本研究は,ガルバニック前庭刺激(GVS)が錐体路と末梢神経のコンバインド刺激による筋電図の空間的促通効果に影響を与えるのか,検討を加えた。
【方法】
実験は健常成人男性7名を対象にした。被験者は椅子に座り,前腕は肘関節60度屈曲位にて固定された。筋電図は,右上腕二頭筋(BB)および第一背側骨間筋(FDI)から単極誘導法にて記録された。被験者がBBの弱い持続収縮(最大力の3%程度)を維持している最中,左右の乳様突起部間にGVS(1.5~2.0 mA)を行った。その間に,1)対側の一次運動野への経頭蓋的磁気刺激(TMS,活動時運動閾値の1.1~1.36倍),2)同側の尺骨神経への電気刺激(FDIの運動閾値の0.75倍)ならびに3)TMSと尺骨神経刺激のコンバインド刺激(刺激間間隔10ミリ秒,尺骨神経刺激先行)を実施した。右GVS電極の極性により,陽極ならびに陰極GVS条件を設定した。対照条件として,GVSを行っていない時に上記1~3)の刺激を行った。空間的促通効果を定量化するため,単独TMSによる運動誘発電位(MEP)と単独尺骨神経刺激効果の代数和(SUM)を計算した。空間的促通効果の振幅は,コンバインド刺激時MEP振幅のSUMに対する百分率として表した。
【結果】
対照,陽極および陰極条件において,コンバインド刺激によるMEP振幅は,SUMと比して,有意に増大した(p<0.01)。その促通量(空間的促通効果)は,対照条件と比べて,陽極ならびに陰極GVS条件で有意に大きかった(p<0.05)。しかしながら,陽極ならびに陰極GVS条件間では,空間的促通効果に有意な違いを認めなかった(p=0.898)。
【結論】
本研究において,錐体路と尺骨神経のコンバインド刺激による空間的促通効果が,GVSによって増大することが明らかとなった。コンバインド刺激の時間間隔(10ミリ秒),尺骨神経の伝導速度(54.3~83.3 m/s,Macefield, et al., 1989)ならびに尺骨神経の刺激強度(運動閾値の0.75倍)に基づけば,筋に由来した神経入力(例えばgroup Ia線維)と錐体路入力を共通して受ける頸髄IN系が,GVSにより促通されたと考えられる。サルGVSは,一次前庭神経線維の持続的な発火活動を修飾すると報告されている(Goldberg, et al., 1984)。従って,本研究の知見は,前庭系からの入力がヒトの頸髄IN系に収束していることを示唆する。