[P-KS-31-2] 痛み関連回避行動と主観的な痛みとの関連性
―恐怖条件付け課題を用いて―
Keywords:痛み, 回避行動, 恐怖条件付け
【はじめに,目的】
痛みの回避行動は,代償による回避行動と患部の学習性不使用や不活動による過剰な回避行動に分けられている。このうち後者は,慢性痛への悪循環の一要因とされ(Vlaeyen JW, et al., 2000),特定のイベントで生じる刺激がすべて痛み刺激であるという概念化が生み出され,それに基づく過剰な保護であるとされている(Moseley GL, et al., 2015)。本研究では,我々が新しく開発したプログラムに基づき,痛みへの過剰な回避行動を実験的に抽出し,痛みを曝されながらの運動に伴う恐怖や痛みの程度の変動を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常若年者31名(20.6±2.5歳)を対象にタッチパネルを用いた描画運動課題を行った。課題時間は30秒とし,練習段階5試行,痛みの恐怖条件付けを引き起こす獲得段階5試行,テスト段階5試行×3セットおよび消去段階5試行の順に実施した。描画運動と同時に電気刺激(日本光電株式会社,SEN-8203)にて痛みを与え(Numerical Rating Scale:8),運動を中止する(過剰な回避行動)と刺激も止まるように設定にした。また,テスト段階では特定の運動方向と速度の条件を満たすと刺激強度が減少する条件(代償的な回避)を加えた。各試行において,運動開始時に眼電図にて聴覚性驚愕反応(恐怖反応)を測定した。各段階あるいは各セットの運動開始時と運動中の主観的な痛み強度をVisual Analog Scale(VAS)にて評価した。さらに,運動をしていない時間(過剰な回避時間)を算出し,過剰な回避行動特性を分析するためにクラスター解析を行った。統計解析は各群,各段階の比較をMann Whitney U-testsおよびFreidman検定にて行い,Bonferroni法で補正し,各パラメータの有意水準を以下のように設定した。過剰な回避時間;p<0.01,恐怖反応;p<0.003,主観的な痛み強度;p<0.01。
【結果】
クラスター解析より,過剰な回避行動群(n=9)と回避しない群(n=22)の2群に分類された。恐怖反応に関しては,練習段階と比較して獲得段階で有意に高値を示した。また,過剰な回避行動群は回避しない群と比較して,消去段階において有意に高く,各段階における運動開始時の痛みに有意な差は認められなかったが,運動中の痛みはテスト段階2,3セット目で有意に高値を示した。
【結論】
痛みへの回避行動にかかわらず痛みの恐怖条件付けは生じたが,過剰な回避行動を示す者は痛みが与えられない条件(消去段階)でも恐怖を感じるという「行動-疼痛の概念化」が惹起されていることが明らかになった。また,過剰な回避行動を示す者は,主観的な痛みは変化しなかったが,回避しない者は痛みの減少が認められ,行動や心理的な側面が痛みに影響を与えることが示された。
痛みの回避行動は,代償による回避行動と患部の学習性不使用や不活動による過剰な回避行動に分けられている。このうち後者は,慢性痛への悪循環の一要因とされ(Vlaeyen JW, et al., 2000),特定のイベントで生じる刺激がすべて痛み刺激であるという概念化が生み出され,それに基づく過剰な保護であるとされている(Moseley GL, et al., 2015)。本研究では,我々が新しく開発したプログラムに基づき,痛みへの過剰な回避行動を実験的に抽出し,痛みを曝されながらの運動に伴う恐怖や痛みの程度の変動を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常若年者31名(20.6±2.5歳)を対象にタッチパネルを用いた描画運動課題を行った。課題時間は30秒とし,練習段階5試行,痛みの恐怖条件付けを引き起こす獲得段階5試行,テスト段階5試行×3セットおよび消去段階5試行の順に実施した。描画運動と同時に電気刺激(日本光電株式会社,SEN-8203)にて痛みを与え(Numerical Rating Scale:8),運動を中止する(過剰な回避行動)と刺激も止まるように設定にした。また,テスト段階では特定の運動方向と速度の条件を満たすと刺激強度が減少する条件(代償的な回避)を加えた。各試行において,運動開始時に眼電図にて聴覚性驚愕反応(恐怖反応)を測定した。各段階あるいは各セットの運動開始時と運動中の主観的な痛み強度をVisual Analog Scale(VAS)にて評価した。さらに,運動をしていない時間(過剰な回避時間)を算出し,過剰な回避行動特性を分析するためにクラスター解析を行った。統計解析は各群,各段階の比較をMann Whitney U-testsおよびFreidman検定にて行い,Bonferroni法で補正し,各パラメータの有意水準を以下のように設定した。過剰な回避時間;p<0.01,恐怖反応;p<0.003,主観的な痛み強度;p<0.01。
【結果】
クラスター解析より,過剰な回避行動群(n=9)と回避しない群(n=22)の2群に分類された。恐怖反応に関しては,練習段階と比較して獲得段階で有意に高値を示した。また,過剰な回避行動群は回避しない群と比較して,消去段階において有意に高く,各段階における運動開始時の痛みに有意な差は認められなかったが,運動中の痛みはテスト段階2,3セット目で有意に高値を示した。
【結論】
痛みへの回避行動にかかわらず痛みの恐怖条件付けは生じたが,過剰な回避行動を示す者は痛みが与えられない条件(消去段階)でも恐怖を感じるという「行動-疼痛の概念化」が惹起されていることが明らかになった。また,過剰な回避行動を示す者は,主観的な痛みは変化しなかったが,回避しない者は痛みの減少が認められ,行動や心理的な側面が痛みに影響を与えることが示された。