[P-NV-13-3] 特発性正常圧水頭症に対する体幹加速度計を用いた歩行分析
―歩行変動に着目して―
Keywords:歩行変動, 加速度計, 正常圧水頭症
【はじめに,目的】
特発性正常圧水頭症(iNPH)患者では小刻み,すり足,ワイドベースといった歩行障害に加えて,平衡障害に起因する姿勢バランス障害により転倒リスクが非常に高い。近年,転倒リスクの指標として歩行変動(歩行周期の時間や歩幅などの変動)が用いられるが,iNPH患者では歩行変動の異常が予想される。そこで,加速度計を用いて髄液タップテスト(TT)前後やシャント術後(術後)のiNPH患者の歩行変動を調査し健常高齢者との差異を検討した。
【方法】
対象はTT陽性でシャント術を受けたiNPH患者23例(男性19名,女性4名,年齢77.1±5.9歳)と健常高齢者18名(健常群:男性12名,女性6名,年齢74.3±3.4歳)である。体幹下部(L3中央)に3軸加速度計(MG-M1100)を装着し快適速度による10m歩行評価をTT前とTT3日後,術後1週時に実施した。そして,得られたstep time(1歩毎に要する時間)と重心移動量を反映する体幹下部の運動振幅(左右振幅,上下振幅),および両者の変動係数(coefficient of variation:CV)を解析した。統計解析にはiNPH群のTT前と健常群との比較にはt検定を,iNPH群のTT前後,シャント術後の比較には分散分析を用いた(有意水準5%)。
【結果】
TT前の歩行速度は健常群と比較してiNPH群で有意に減少していた(iNPH群0.72±0.33 m/s,健常群1.23±0.13 m/s)。step timeは健常群と比較してiNPH群で有意に延長し(iNPH群0.551±0.059 s,健常群0.505±0027 s),step time CVも有意に増大していた(iNPH群TT前10.70±7.79,健常群2.79±0.76)。体幹下部の左右運動振幅は健常群と比較してiNPH群で有意に増大し(iNPH群5.99±1.75 cm,健常群3.17±0.85 cm),上下運動振幅は有意に減少していた(iNPH群1.71±0.82 cm,健常群3.44±0.6 cm)。そして,運動振幅CVは左右,上下ともに健常群と比べてiNPH群で有意に増大していた(左右:iNPH群10.68±2.68,健常群8.82±1.97,上下:iNPH群25.6±14.95,健常群8.15±1.75)。TT後や術後の比較では,iNPH群の歩行速度は有意に改善した(TT後0.86±0.29 m/s,術後0.89±0.26m/s)。step time CVはTT後,術後ともに有意に改善し(TT後6.13±3.07,術後5.60±3.02),運動振幅CVも左右,上下とも改善した(左右:TT後8.62±3.0,術後8.87±3.03,上下:TT後17.86±8.82,術後15.84±7.27)。
【結論】
TT前のiNPH群の歩行では健常高齢者と比較して,歩行速度が低下しstep timeおよび重心移動も著しく変動していた。このことから,iNPH群では重心コントロールが稚拙なため,歩行が不安定となり歩行速度が低下し,転倒リスクが高まる可能性が示唆される。一方,TT後や術後は歩行速度が向上すると同時に歩行変動も軽減した。歩行速度の向上は歩行安定改善の結果と考えられるので,治療後のiNPH群の歩行安定性の改善を反映する歩行変動は,iNPH患者の歩行障害を評価する有用な指標であると考えられる。
特発性正常圧水頭症(iNPH)患者では小刻み,すり足,ワイドベースといった歩行障害に加えて,平衡障害に起因する姿勢バランス障害により転倒リスクが非常に高い。近年,転倒リスクの指標として歩行変動(歩行周期の時間や歩幅などの変動)が用いられるが,iNPH患者では歩行変動の異常が予想される。そこで,加速度計を用いて髄液タップテスト(TT)前後やシャント術後(術後)のiNPH患者の歩行変動を調査し健常高齢者との差異を検討した。
【方法】
対象はTT陽性でシャント術を受けたiNPH患者23例(男性19名,女性4名,年齢77.1±5.9歳)と健常高齢者18名(健常群:男性12名,女性6名,年齢74.3±3.4歳)である。体幹下部(L3中央)に3軸加速度計(MG-M1100)を装着し快適速度による10m歩行評価をTT前とTT3日後,術後1週時に実施した。そして,得られたstep time(1歩毎に要する時間)と重心移動量を反映する体幹下部の運動振幅(左右振幅,上下振幅),および両者の変動係数(coefficient of variation:CV)を解析した。統計解析にはiNPH群のTT前と健常群との比較にはt検定を,iNPH群のTT前後,シャント術後の比較には分散分析を用いた(有意水準5%)。
【結果】
TT前の歩行速度は健常群と比較してiNPH群で有意に減少していた(iNPH群0.72±0.33 m/s,健常群1.23±0.13 m/s)。step timeは健常群と比較してiNPH群で有意に延長し(iNPH群0.551±0.059 s,健常群0.505±0027 s),step time CVも有意に増大していた(iNPH群TT前10.70±7.79,健常群2.79±0.76)。体幹下部の左右運動振幅は健常群と比較してiNPH群で有意に増大し(iNPH群5.99±1.75 cm,健常群3.17±0.85 cm),上下運動振幅は有意に減少していた(iNPH群1.71±0.82 cm,健常群3.44±0.6 cm)。そして,運動振幅CVは左右,上下ともに健常群と比べてiNPH群で有意に増大していた(左右:iNPH群10.68±2.68,健常群8.82±1.97,上下:iNPH群25.6±14.95,健常群8.15±1.75)。TT後や術後の比較では,iNPH群の歩行速度は有意に改善した(TT後0.86±0.29 m/s,術後0.89±0.26m/s)。step time CVはTT後,術後ともに有意に改善し(TT後6.13±3.07,術後5.60±3.02),運動振幅CVも左右,上下とも改善した(左右:TT後8.62±3.0,術後8.87±3.03,上下:TT後17.86±8.82,術後15.84±7.27)。
【結論】
TT前のiNPH群の歩行では健常高齢者と比較して,歩行速度が低下しstep timeおよび重心移動も著しく変動していた。このことから,iNPH群では重心コントロールが稚拙なため,歩行が不安定となり歩行速度が低下し,転倒リスクが高まる可能性が示唆される。一方,TT後や術後は歩行速度が向上すると同時に歩行変動も軽減した。歩行速度の向上は歩行安定改善の結果と考えられるので,治療後のiNPH群の歩行安定性の改善を反映する歩行変動は,iNPH患者の歩行障害を評価する有用な指標であると考えられる。