[O-002] 大腿骨近位部骨折術後患者の島嶼部への自宅退院と介護者の重要性
Keywords:介護者、大腿骨近位部骨折、島嶼部
【はじめに,目的】
当院の所在する広島県呉市は高齢化率が約34%であり,全国の人口15万人以上の都市で最も高い(総務省,2017).筆者らが大腿骨近位部骨折術後患者に行った自宅退院に関する調査では,術前に島嶼部と平地部に居住していた者で退院時の身体機能に差がなくても,島嶼部への自宅退院率が低く,島嶼部への自宅退院には日常生活動作(ADL)の自立が不可欠であることがわかった(鈴木ら,2015,石橋ら,2017,2018).しかし,島嶼部には独居高齢者が多く,ADLが自立していても自宅退院できない症例を多く経験し,自宅退院にはADLの自立に加え,介護者の有無も要因になるのではないかと考えた.本研究の目的は,島嶼部への自宅退院に介護者の有無が影響するかを確認することとした.
【方法】
対象は,2015年1月から2019年6月の間に当院回復期病棟を退院した大腿骨近位部骨折術後患者のうち,受傷前に島嶼部に居住していた41名(男性6名,女性35名)とした.対象の年齢,10m歩行時間,6分間歩行距離,患側片脚立位時間,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Functional Independence Measureの運動項目(Motor FIM),独居率,主介護者の続柄を調査した.独居率は独居,同居,主介護者が車で15分未満の場所に居住,15分以上1時間未満の場所に居住の4つに分類した.退院先により,自宅群または施設群に分けた.統計学的解析は,対応のないt検定もしくはMann-Whitney U検定を行い,独居率,介護者の続柄にはFisherの正確確率検定,事後検定としてBonferroni法を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.
【結果】
退院先は,自宅29名,施設12名であり,自宅退院率は70.7%と高かった.年齢は自宅群84.5±6.2歳,施設群84.6±7.5歳と差がなかった. Motor FIMは自宅群67±14点,施設群45±11点であり,自宅群で有意に高かった(p<0.01).6分間歩行距離は自宅群182.9±96.3m,施設群118.3±65.8mであり,自宅群で有意に高かった(p<0.05).独居率は,自宅群で独居3名(10%),同居19名(66%),介護者が15分未満の場所に居住4名(14%),15分以上1時間未満の場所に居住3名(10%)だった.施設群で独居7名(58%),同居4名(33%),15分未満の場所に居住1名(8%)であり,自宅群は施設群と比べ,介護者の同居の割合が高かった(p<0.05).その他の心身機能の項目に有意差はなかった.
【結論】
島嶼部への自宅退院には,歩行耐久性獲得に加えADLの自立(Motor FIM)が必要であることが改めて示された.加えて,介護者との同居が自宅退院に有利である可能性が示唆された.島嶼部では介護サービスに制約があり,自宅退院には身体機能面に加え,ADL練習や,介護者への介助指導も重要であると考えられた.
【倫理的配慮、説明と同意】
マッターホルンリハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(MRH180011).
当院の所在する広島県呉市は高齢化率が約34%であり,全国の人口15万人以上の都市で最も高い(総務省,2017).筆者らが大腿骨近位部骨折術後患者に行った自宅退院に関する調査では,術前に島嶼部と平地部に居住していた者で退院時の身体機能に差がなくても,島嶼部への自宅退院率が低く,島嶼部への自宅退院には日常生活動作(ADL)の自立が不可欠であることがわかった(鈴木ら,2015,石橋ら,2017,2018).しかし,島嶼部には独居高齢者が多く,ADLが自立していても自宅退院できない症例を多く経験し,自宅退院にはADLの自立に加え,介護者の有無も要因になるのではないかと考えた.本研究の目的は,島嶼部への自宅退院に介護者の有無が影響するかを確認することとした.
【方法】
対象は,2015年1月から2019年6月の間に当院回復期病棟を退院した大腿骨近位部骨折術後患者のうち,受傷前に島嶼部に居住していた41名(男性6名,女性35名)とした.対象の年齢,10m歩行時間,6分間歩行距離,患側片脚立位時間,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Functional Independence Measureの運動項目(Motor FIM),独居率,主介護者の続柄を調査した.独居率は独居,同居,主介護者が車で15分未満の場所に居住,15分以上1時間未満の場所に居住の4つに分類した.退院先により,自宅群または施設群に分けた.統計学的解析は,対応のないt検定もしくはMann-Whitney U検定を行い,独居率,介護者の続柄にはFisherの正確確率検定,事後検定としてBonferroni法を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.
【結果】
退院先は,自宅29名,施設12名であり,自宅退院率は70.7%と高かった.年齢は自宅群84.5±6.2歳,施設群84.6±7.5歳と差がなかった. Motor FIMは自宅群67±14点,施設群45±11点であり,自宅群で有意に高かった(p<0.01).6分間歩行距離は自宅群182.9±96.3m,施設群118.3±65.8mであり,自宅群で有意に高かった(p<0.05).独居率は,自宅群で独居3名(10%),同居19名(66%),介護者が15分未満の場所に居住4名(14%),15分以上1時間未満の場所に居住3名(10%)だった.施設群で独居7名(58%),同居4名(33%),15分未満の場所に居住1名(8%)であり,自宅群は施設群と比べ,介護者の同居の割合が高かった(p<0.05).その他の心身機能の項目に有意差はなかった.
【結論】
島嶼部への自宅退院には,歩行耐久性獲得に加えADLの自立(Motor FIM)が必要であることが改めて示された.加えて,介護者との同居が自宅退院に有利である可能性が示唆された.島嶼部では介護サービスに制約があり,自宅退院には身体機能面に加え,ADL練習や,介護者への介助指導も重要であると考えられた.
【倫理的配慮、説明と同意】
マッターホルンリハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(MRH180011).