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[A-43] 吸血性ケブカクモバエの内部共生細菌Aschnera chinzeiiのゲノム解析
昆虫と微生物の共生関係は自然界に遍く存在し、この関係において共生微生物は宿主昆虫にとって極めて重要な生物学的役割を果たすことが多い。特に栄養バランスの悪いエサ資源を利用する昆虫、例えばツェツェバエ、シラミ、ナンキンムシなど脊椎動物の血液を利用する吸血性昆虫はビタミンB群の不足を補うために特定の微生物共生体を保有することが知られている。これらの中でクモバエはコウモリの体表でほぼ一生を過ごす外部寄生性昆虫で、細胞内共生細菌"Candidatus Aschnera chinzeii "を保有している。本発表では、ケブカクモバエ由来のAschneraの完全長ゲノム配列を初めて報告する。Aschneraは0.77 Mbの極小のゲノムを持ち、核酸や必須アミノ酸の合成経路遺伝子など多くの重要な機能性遺伝子を欠いている一方で、ビオチンをはじめとするビタミンB群の合成経路遺伝子は完全あるいはほぼ完全に保持しており、宿主クモバエが食する血液に不足するこれらの補酵素類をAschneraが供給していることが示唆された。ゲノムから推定される主要代謝経路の存否や多座位系統解析の結果に基づいて、このAschneraも含めた吸血昆虫の内部共生細菌の進化パターンを考察する。