日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 分類・形態・組織

2024年3月29日(金) 13:30 〜 18:00 B会場 (萩)

15:45 〜 16:00

[B-20] 外傷性授精に使われるトコジラミCimex lectulariusの把握器の挿入メカニクス

◯松村 洋子1,2、Wencke Krings1,3、Alexander Kovalev1、Stanislav N. Gorb1 (1. Kiel University、2. 北海道大学・昆虫体系学、3. Hamburg University)

トコジラミ科では外傷性授精が広く知られ,雄は雌の腹部に傷をつけ,傷から把握器を挿入し精子を渡す.把握器の形が種間で多様化し,なかには外傷性授精に使用するには脆いように思われるほど細長い構造を持つ種もいる.本科における把握器の形態的多様性の進化を理解する手がかりとして,材料が豊富に手に入るCimex lectulariusの把握器の挿入メカニクスに取り組んだ.まず,共焦点レーザー顕微鏡を用いて本種の把握器の形状と硬さの分布を推定した.一見,シンプルに見える管状の把握器の形状は複雑で,座屈耐性を高め得ると考えられる.柔軟性を備えている翅上の構造を除く把握器は一様に硬化していた.加えて,新鮮な状態と乾燥状態の双方を用いて,把握器の座屈試験を行った.その結果,乾燥状態の把握器の方が耐性が高かったが,破損度は新鮮な状態のほうが小さかった.いずれの場合でも,メスの腹部に穴をあけるのに必要な力よりはるかに大きな力が必要であった.しかし,交尾時にメスがオスの把握器をしきりに蹴る行動が見られ,雄自身も把握器の破損を引き起こす力に匹敵する力を出すことが可能なため,把握器はより高い安全率を持つように進化してきたことが考えらえる.