日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 分類・形態・組織

2024年3月29日(金) 13:30 〜 18:00 B会場 (萩)

17:30 〜 17:45

[B-27] 一部の個体が長期休眠をする労働寄生蜂(タマバチ科)の未記載種を首都圏で発見

◯阿部 芳久1、井手 竜也2、鄔 亜嬌3 (1. 九大院・比文、2. 科博・動物、3. 九大院・地球社会)

東京都の東半分は海抜60m以下の平地であり、都市化が進み、わずかに残された緑地が土着昆虫類の避難場所になっている。都市化を免れた皇居で生物相調査が行われた結果、タマバチ科ではニホンノイバラタマバチDiplolepis japonicaだけが記録された。本種のゴールを東京都内の都市部で探したところ武蔵野市内のノイバラで発見した。そのゴールを採集し福岡市内の野外条件下で保管した結果、ニホンノイバラタマバチに加え、4月から5月にかけて労働寄生蜂が羽化した。形態とDNAバーコードに基づき、本種はバライソウロウタマバチ属Periclistusの未記載種と同定された。さらに、本未記載種の多くの個体は年1化であるが、一部の個体は幼虫が休眠して産卵から羽化まで2年を要することも確かめられた。ナラタマバチ族以外のタマバチ科では長期休眠は初記録である。九州大学所蔵の標本調査の結果、現在の山梨県山梨市で1950年代に採集された本種の標本を見出した。それゆえ都市化が進む前の首都圏に本種は広く分布していた可能性がある。東京都内の平野部に残された緑地のインベントリーを進め、得られた生物多様性に関する情報を、緑地の保全など今後の都市計画に活かすことが望まれる。