日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 生態学・行動学

2024年3月30日(土) 09:00 〜 11:30 B会場 (萩)

09:30 〜 09:45

[B-31] 単婚性の進化におけるオス由来物質の役割

伊藤 元春1、◯松尾 隆嗣1 (1. 東大・農)

多くの昆虫のメスは生涯に異なるオスと複数回の交尾をする多婚性であるが、一度しか交尾をしない単婚性の種もいる。このような配偶システムの違いはしばしば近縁種間でも見られるため、比較的容易に進化しうるのではないかと考えられるが、そのメカニズムは特殊な例を除き全く分かっていない。一方、多婚性の種でも交尾後しばらくの間はメスの受容性が低下することが知られており、オスの精液に含まれる物質が原因であると考えられている。単婚性の種ではこの仕組みが強化され、長期にわたってメスの受容性が回復しなくなっているのかもしれない。この可能性を検討するため、配偶システムの異なるショウジョウバエ種間でオス由来物質の交尾抑制効果を比較した。未交尾のメスにオスの内部生殖器の抽出物を注射すると、一定期間メスの交尾受容性が低下する。単婚性の種では1週間後でもオス由来物質の効果が持続していたが、多婚性の種では3日後には完全にメスの交尾受容性が回復していた。そこでそれぞれのメスに他種由来の抽出物を注射したところ、予想に反して、むしろ多婚性種の抽出物の方が強い交尾抑制効果を持つことがわかった。この結果は、これまでに知られている事例とは異なり、これらの種ではメス側の進化によって単婚性が実現していることを示唆している。