日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 生態学・行動学

2024年3月31日(日) 09:00 〜 11:15 B会場 (萩)

10:45 〜 11:00

[B-46] カワラケツメイ茶の栽培地で生き延びるツマグロキチョウ

◯鈴木 紀之1、岡田 遼太郎1 (1. 高知大学)

伝統的な文化と生物の多様性の双方が失われつつある中、私たちはそれらの歴史を記録し、保全に必要な科学的手法を確立しなければならない。高知県などでは、カワラケツメイをお茶として栽培する文化が残っており、それを食草としている希少種のツマグロキチョウが農地に依存して生息している。しかし、ツマグロキチョウの現在の分布や個体数、農地の生息地としての適性は明らかになっていない。そこで本研究では、高知県と徳島県において、カワラケツメイの自生地と栽培地におけるツマグロキチョウの個体数を調べた。4カ所の自生地と7カ所の栽培地でマーキング調査を行ない、発見確率を考慮した階層モデリングによって個体数とそれに影響を与える環境要因を推定した。その結果、栽培地では自生地と同じようにツマグロキチョウが発生していることが明らかになった。これは、地域の伝統的な農業が希少種の保全に結びついている事例といえるだろう。ただし、農家の高齢化や消費者の嗜好の変化による栽培文化の縮小、ならびに自生地の消滅による生息地の分断化などによって、ツマグロキチョウ集団の遺伝的多様性と存続が危ぶまれる可能性も残されている。