日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 生態学・行動学

2024年3月31日(日) 13:30 〜 16:00 B会場 (萩)

14:15 〜 14:30

[B-51] アリの足跡はカブリダニによるハダニ制御を妨げないようだ

◯矢野 修一1 (1. 京都大学大学院 農学研究科 生態情報開発学分野)

農業害虫のナミハダニとカンザワハダニは、超普通種のクロヤマアリの足跡を3日以上も避ける。したがって、アリの足跡物質でハダニを追い払える可能性がある一方で、足跡物質がハダニを制御するカブリダニの働きを妨げないか気掛かりだ。そこで、クロヤマアリの足跡に対する産卵忌避反応を調べると、食性がスペシャリスト寄りのケナガカブリダニとミヤコカブリダニ(スパイカルEX)は避けず、ジェネラリストのコウズケカブリダニ(以下コウズケ)が避けた。ハダニの防御網内で採餌するスペシャリストは網でアリから守られる一方で、網に侵入できないジェネラリストは常にアリの脅威に晒されることを反映すると思われる。アリの足跡を避けないケナガカブリダニが、ハダニの網ごと葉を食べる芋虫類の足跡を避ける事実はこの仮説を支持する。また、コウズケがアリの足跡を避けるとハダニの捕食が妨げられるとは限らない。コウズケとハダニがアリの足跡を避けて足跡がない場所で出会い易いかもしれないからだ。人工生態系を反復する手法でこの可能性を検証すると、アリの足跡がコウズケによるハダニの捕食を促す相乗効果はなかったが、捕食を妨げる効果もなかった。以上より、アリの足跡がカブリダニ類によるハダニの抑止(生物的防除)を妨げるいかなる証拠もないと結論する。