日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[G] 系統・生物地理・進化・種分化

2024年3月31日(日) 09:00 〜 11:30 G会場 (小会議室8)

09:15 〜 09:30

[G-23] 東北地方の酸性河川に出現するナガレトビケラの種分化仮説

◯倉西 良一1 (1. 神奈川工科大学)

関東甲信越から北の地域にはpHが5未満の自然酸性河川がいくつも見られ、そこには独特な生物相が観察される。秘湯として有名な秋田県仙北市の玉川温泉周辺を源流とする渋黒川もその一つである。渋黒川の底生動物群集は青谷(2018)がその季節変動と特性について報告している。渋黒川には顕著に出現するナガトビケラがおり、青谷の一連の研究ではレゼイナガレトビケラ(以降レゼイ)とされていた。本当にレゼイが酸性河川に出現するのか? 従来の知見ではレゼイは北関東を分布の北限としているからである。また甲信越の酸性河川にも出現することはない(長野県の酸性河川にはエダエラナガレが出現する)。青谷さんの協力を得て渋黒川産の標本を精査したところ、渋黒川のナガレトビケラは、エダエラではなくレゼイに形態的に酷似した未記載の別種(レゼイモドキ:仮称)であることが分かった。ではなぜ(一見すると)レゼイと見間違うような形態をもつレゼイモドキがレゼイの分布域から離れた東北の酸性河川に出現するのか?酸性環境に特殊化したレゼイモドキの種分化過程について、レゼイとエダエラとの関係から推定された仮説を紹介したい。