[PS01-07] クワガタムシ科におけるメス化遺伝子transformer の遺伝子重複
昆虫における性決定の分子メカニズムは、上流因子が種間で非常に多様である一方で、下流にある因子は系統的に離れた分類群間でも比較的よく保存される傾向がある。昆虫群間でよく保存された因子として、最下流に位置し転写因子をコードする doublesex 遺伝子とそのスプライシング制御因子をコードするtransformer (tra )遺伝子が知られている。完全変態昆虫ではtra は通常ゲノム中に一つのみ存在する。膜翅目では例外的にtra が重複し、その重複遺伝子が性決定の分子メカニズムに関与していることが分かっているが、tra の遺伝子数の拡張の明確な証拠はこの膜翅目の一部でしか得られていない。しかし最近、我々は、想定外にも、鞘翅目コガネムシ上科に属するクワガタムシ科Lucanidaeで、tra の数が遺伝子重複により多様化していることを発見した。しかし、このtra の重複がクワガタムシ科において広く認められるのか、或いはごく一部の分類群のみで生じたのかは未だ明らかでない。本研究では、クワガタムシ科において系統学的に早くに分岐した分類群から比較的最近分岐した分類群まで、複数の種でtra の数を調査し、クワガタムシ科内でのtra 遺伝子のレパートリーとその重複タイミングの推定を試みた。