[PS02-01] シロアリのカースト間代謝ネットワークにおいてグルコースが女王に集中する
生物一般に生殖と寿命には負の相関がある一方で、シロアリの王と女王はこのトレードオフを打破する稀有な生物である。彼らの圧倒的長寿を実現するメカニズムは寿命研究における最大の謎の一つであり、強い関心を集めている。エネルギー代謝経路の解糖系は、酸化ストレスの発生しないエネルギー生産経路として知られている。これまでの研究より、ヤマトシロアリの女王は短命なワーカーと比較して解糖系の代謝遺伝子が高発現していることを明らかにした。これは女王の解糖系亢進を示唆するが、解糖系の駆動には十分なグルコースの供給が不可欠である。シロアリはカースト間代謝ネットワークを持っており、女王の代謝源はワーカーの給餌によって供給される。そこで我々は、この代謝ネットワークによって女王にグルコースが集中するという仮説を立てた。本研究では、実際にグルコースが女王へ集積しているかどうか調べるため、給餌物が存在する中腸内のグルコース量を女王とワーカーの間で比較した。その結果、女王の中腸内グルコース量はワーカーのものと比較して有意に高かった。以上の結果は、グルコースが女王に集中するというシロアリのカースト間代謝ネットワークの一部を明らかにするとともに、彼らの長寿化と代謝最適化の関係について新たな知見を与えるものとなった。