[PS02-26] 極限環境湖から発見された線虫Tokorhabdits tufaeの特殊繁殖形態と環境適応
線虫Tokorhabditis tufaeは高濃度のヒ素を含む極限環境湖から発見された線虫である。線虫は一般に卵生の繁殖形態を有するが、演者らはT. tufaeが受精卵を体内に保持し、幼虫をある程度成長させてから体外に出産する「胎生」の繁殖形態を有することを以前に報告した。しかし、子宮内での発生過程の詳細や出産時の幼虫の生育ステージに関しては不明であった。そこで本研究では、母体内での幼虫の発生過程を明らかにするために、孵化直後の幼虫及び出産直後の幼虫の形態観察を行った。その結果、出産直後の幼虫の多くは環境ストレス耐性の高い耐久型幼虫であり、これらの個体はその後すべて雌雄同体成虫へと成長した。一方、一部の個体は耐久型ではない増殖型の幼虫として出産されており、これらの個体は雌成虫もしくは雄成虫へと成長することが示唆された。また、脱皮殻の観察から、幼虫は卵内もしくは子宮内で2回の脱皮を行った後、第3期幼虫もしくは耐久型幼虫として出産されることが明らかになった。本研究によって明らかにされたT. tufaeの繁殖形態は既知の他線虫種とは著しく異なるものであり、このユニークな繁殖形態は過酷環境への適応戦略の一つであると考えられる。