[PS02-30] タテイレコダニ属の一種の分布およびその海流分散の可能性
飛翔あるいは歩行能力が低いなど,移動能力が乏しい生物にとって,一般に海洋は新たな棲息地への分散を妨げる大きな障壁と考えられる.ササラダニも移動能力に乏しい生物だが,一部の種は本土と小笠原諸島のような海洋島との両方に棲息しているため,海を越える何らかの移動手段を持つはずである.この移動手段を明らかにすることは,移動能力に乏しい微小な節足動物が,どのように海という障壁を乗り越え分布を拡大しているかの理解において重要である.演者は静岡大学構内において,朽木内部から未記載種であるタテイレコダニ属の一種Oribotritia sp.を発見した.日本各地を調査した結果,本種は静岡県,沖縄県南大東島,和歌山県,及び富山県の各地点における海岸,近傍の防風林及び海に近い森林で棲息が確認されたが,内陸部において棲息を確認できなかった.これらのことは,本種は沿岸部に沿って棲息地を拡大したことを示唆する.さらに,海洋島である南大東島にて本種の棲息が確認できたことから,棲息している朽木が海流によって運搬されたことによって棲息地を拡大した可能性が高い.今後,本種の遺伝的構造の解明や海水耐性の検証により,本種の海流分散の可能性について更なる解明が必要である.