日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

小集会

[W17] 昆虫分類若手懇談会シンポジウム「地域昆虫相解明のために研究者には何ができるのか」

2024年3月31日(日) 17:00 〜 18:30 C会場 (白橿1)

世話人:鈴木信也

17:00 〜 17:45

[W17-01] 地域から世界へ:在野研究者との協力関係が分類学と教育にもたらす貢献

◯相馬 純1 (1. 弘前大・白神センター)

地域の生物相解明は,県版レッドリストなどの基盤となる分布情報を蓄積できるだけでなく,分類学者が市民を在野研究者に教育できる機会でもある.同定依頼への分類学者の回答は,地域の生物相の正確な把握に寄与すると同時に,市民に研究対象への興味を抱かせるきっかけとなる.分類学者が全国各地の市民を在野研究者へ育成し協力関係を構築することは,地域ごとに偏りない生息種数の解明に結び付き,網羅的なサンプリングによる分類学的研究の実施を可能とする.
陸生カメムシ類の分類を専門とする演者は,インターネット上での普及活動と同定依頼への対応を通じ,全国各地の在野研究者と共同で地域の生物相解明に取り組んできた.演者と協力関係にある在野研究者の発見は,県や島の初記録種の共著短報,日本初記録種の共著論文,新種記載論文として公表されている.さらに,同定依頼による膨大な標本の蓄積は,難分類群の分類学的再検討の完遂に繋がった.他方で,演者が所属する弘前大学白神自然環境研究センターでは,イベントの開催やブックレットの出版を通じて,市民の在野研究者への育成と若手研究者への成長機会の提供に取り組んでいる.本講演では,分類学者が地域の生物相解明を行うことが,教育普及活動のみならず分類学的研究にも貢献した実例について述べる.