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[W21-01] アリ随伴性シジミチョウの分布拡大に伴う種間関係の変遷
生物は同時に複数の種間関係を構築しており,個々の生物種の分布域はこうした種間関係にも規定されている.しかし従来の研究では,注目している種の分布域に種間関係がどのように影響を及ぼすかについて,複数の種間関係を対象にした研究例はほとんどなかった.鱗翅目シジミチョウ科では,多くの種が幼虫期にアリに蜜を与え,その代わりに天敵を排除させる防衛共生を持つことが知られている.本研究では,現在分布を北上させているアリ随伴性のムラサキシジミに注目し,本種の分布拡大に伴うアリと捕食寄生者との3者関係の変遷に迫った.野外調査により,ムラサキシジミ幼虫は20種近くものアリと共生関係を持てること,従来からの分布域である西日本では高頻度で捕食寄生者に殺されている一方,分布北限である宮城県仙台市では捕食寄生者が全く見られないことが判明した.また,野外調査と室内実験の結果,仙台集団のアリ随伴率は西日本集団よりも有意に低かった.以上より,捕食寄生者から逃れただけでなく,共生相手のアリ種に関する制約が少なく,かつ関係強度を必要に応じて変化できる柔軟性が,ムラサキシジミの分布北上を可能にしていることが示唆された.