日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

小集会

[W21] アリをめぐる生物種間の相互作用2024(JIUSSI共催)

2024年3月31日(日) 17:00 〜 18:30 G会場 (小会議室8)

世話人:上田昇平、北條 賢

17:30 〜 18:00

[W21-02] 一時的社会寄生種トゲアリ(Polyrhachis lamellidens)の寄生戦略

◯岩井 碩慶1,2,3、河野 暢明3,4、古藤 日子1 (1. 産業技術総合研究所、2. 日本学術振興会 特別研究員PD、3. 慶應義塾大学 先端生命科学研究所、4. 慶應義塾大学大学院)

アリ類の中には他者に依存して生活する社会寄生種と呼ばれる存在がいる.一部の社会寄生種の新女王は,宿主探索,巣仲間識別物質の化学偽装,そして宿主女王の殺害を通してコロニー創設を行う.本研究では社会寄生種トゲアリの新女王を対象に,上述した寄生行動の根底に存在する分子機構の解明を目指した.まずトゲアリの宿主識別に関わる手がかりを調査するために,宿主アリ種の体表成分が塗布されたビーズを用いてバイオアッセイを実施したところ,トゲアリは宿主に対してのみ見せる寄生行動をビーズに対しても行った.このことから宿主識別には宿主の体表成分が関与していることが示唆された.次に本種の化学偽装機構について調査したところ,トゲアリは宿主に人工的に塗布された標識物質を化学偽装の際に獲得した一方で,巣仲間識別物質の合成遺伝子の発現量に変化は見られなかった.このことから,本種は宿主が持つ巣仲間識別物質を直接奪取することで化学偽装を遂行することが示された.最後に宿主女王の殺害前後における本種の遺伝子発現傾向を調査したところ,卵巣発達に関わるいくつかの遺伝子が殺害後に発現上昇することを確認し,女王殺害が卵巣発達に関与している可能性を見出した.これらの研究によりトゲアリの寄生機構の一端を解明出来たと考える.