第33回大阪府理学療法学術大会

講演情報

Webポスター

[P-6] 運動器①(大腿骨頸部骨折)P-6

2021年7月11日(日) 08:45 〜 15:30 Web Poster:P-6 (webポスター会場)

座長:向井 拓也(愛仁会リハビリテーション病院)

[P-6-04] 起立動作の獲得に難渋した大腿骨転子部骨折症例に対する介入経験 〜股関節の知覚に着目して〜

*浦野 寛太1、橋本 宏二郎1、奧埜 博之1 (1. 医療法人孟仁会 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【症例紹介】
左大腿骨転子部骨折を受傷し,骨接合術(γ-nail)を施行した80歳代男性.術後から左股関節に対する運動恐怖感と強い疼痛が生じており,術後9週時点においても起立動作の獲得に難渋していた.今回,股関節の知覚に着目した介入により,起立動作の自立に至ったため報告する.
【評価とリーズニング】
術後9週目のROMは左股関節屈曲95°,内旋-15°,MMTは左腸腰筋4,左中殿筋3,左大殿筋2,大殿筋と股関節外旋筋群の筋緊張が亢進しており,感覚障害は認めなかったが左股関節外転外旋位を中間位と知覚していた.加えて,「動くと痛い,不安,力が抜けない」と訴え, Tampa scale for kinesiophobia(以下,TSKとする)は50点と運動恐怖感が残存していた.これらから,能動的な活動量の低下および疼痛回避肢位の学習によるROM制限や筋力低下に加え,左股関節の知覚に問題が生じたのではないかと考えた.起立動作時には,屈曲相から殿部離床にかけて,左股関節外転外旋が強まり,骨盤前傾の制動に働く左大殿筋の十分な筋出力が得られず,NRS7の疼痛が生じていた.疼痛の要因としては,遠心性収縮が必要な殿部離床時に左大殿筋の過剰な求心性収縮が生じていたこと,さらに左股関節外旋を制動するために左大腿筋膜張筋が過剰収縮していたことで,左殿部と大腿外側部に疼痛が生じたのではないかと考えた.そこで,徒手にて左股関節中間位に修正した状態での起立動作を介助したところ,左殿筋群の筋出力の向上と円滑な前方への重心移動が得られ,疼痛がNRS3へと減少した.よって,左股関節の知覚に着目した介入を実施することで,起立動作能力の向上が得られるのではないかと仮説を立て,介入を試みた.
【介入と結果】
股関節中間位の学習を目的に,臥位で股関節と足関節の位置関係を問いながら,股関節位置覚の識別課題を実施した.次いで,視覚情報と体性感覚情報の統合を目的として,股関節の運動および下肢のアライメントによる疼痛の変化を座位にて鏡を用いて教示し,疼痛の少ない状態での起立動作の再学習を図った.本介入を60分間10日間実施した結果,ROM左股関節内旋-5°,左大殿筋の筋力は3へと向上し,左大殿筋と股関節外旋群の筋緊張の軽減と左股関節中間位の知覚が可能となった.また,起立動作は自立となり,疼痛はNRS2へと改善,TSKは47点に減少を認めた.
【結論】
本症例は,術後の急性痛および運動恐怖感による不動や,運動時の過剰な防御性収縮による疼痛によって,誤った知覚が学習され,左股関節外転外旋位を中間位と認識していたことが,起立動作の阻害因子になっていたと考える.股関節のマルアライメントによる下腿の鉛直な配列の崩れは,殿部離床を困難とする要因となる.本症例の介入経験を通して,段階的に難易度を調整した左股関節位置覚への介入が,起立動作獲得の一助となる可能性が示唆された.今後はより客観的な評価を導入を検討していきたい.
【倫理的配慮、説明と同意】
症例には,本発表の目的や方法について十分に説明し,同意を得た上で実施した.

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