第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-13] 一般演題(運動器⑤)

2022年7月3日(日) 15:15 〜 16:00 会場4 (10階 1009会議室)

座長:今岡 真和(大阪河﨑リハビリテーション大学)

15:15 〜 15:25

[O-13-1] 人工膝関節置換術後の歩行獲得に影響する術前因子

大畑 海宇太1, 山口 ひかり1, 水野 奈津希1, 高見 武志1, 藤川 薫1, 大野 直紀2 (1.医療法人春秋会城山病院リハビリテーション科, 2.地方独立行政法人りんくう総合医療センターリハビリテーション技術科)

キーワード:人工膝関節置換術、歩行能力

【背景と目的】
医療費の抑制を目的とした人工膝関節置換術の在院日数の短縮が求められる社会情勢において、術後の早期歩行獲得が命題である。術後の歩行獲得には、疼痛や大腿四頭筋筋力の回復などの術後因子が多く報告されているが、術後の歩行獲得に影響する術前因子は十分に明らかにされていない。術前因子から歩行獲得遅延を予測することで術前リハビリテーションの導入や術後理学療法の工夫や強化を図ることが可能である。そこで本研究では、人工膝関節置換術後の歩行獲得に影響する術前因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】
本研究は2020年6月から2021年11月に変形性膝関節症にて人工膝関節置換術を施行した患者を対象とした後ろ向き観察研究である。本研究では、術後歩行獲得日数を明らかにするため、術前の移動様式が車椅子もしくは押し車を利用していた患者、退院までに歩行獲得不可であった患者を除外した。調査項目は、術式(TKA, UKA)、術後の歩行獲得日数、患者背景として年齢、性別、体重、既往歴(糖尿病の有無)、栄養状態(GNRI)、身体機能評価として、術前の膝関節可動域、JKOM、JOA score、10m歩行速度を電子カルテより抽出した。歩行獲得日数は、歩行自立の判断に影響を及ぼす可能性がある認知面を考慮し、杖もしくは独歩で出棟できた日までの期間とした。統計解析は、従属変数を歩行獲得日数、独立変数を性別、膝関節可動域、術前10m歩行速度、JKOM、JOA、既往歴(DMの有無)、栄養状態(GNRI)、歩行開始日とした重回帰分析を用いた。年齢と術式は、術後の歩行獲得日数に影響を及ぼす因子として共変量とし、それぞれ各因子を解析した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象はTKA 27例、UKA 18例の計45名[年齢76歳(IQR 74-79)、女性33例(73.3%)]であった。術後の歩行獲得日数の中央値は15日(IQR 11-18)であった。重回帰分析の結果、術後の歩行獲得日数に影響する因子は、JKOM(β=0.16, p=0.047)のみが同定された。続いてJKOMの下位項目の影響を明らかにするために年齢と術式を共変量とした重回帰分析を行った結果、JKOMのなかで日常生活(β=0.38, p= 0.039)の項目のみが独立した関連因子であった。
【結論】
人工膝関節置換術後の歩行獲得に関連する術前因子は、年齢と術式に関わらずJKOMであった。JKOMは疼痛、膝関節機能、歩行能力といった身体機能面を反映しており、術前より歩行速度・身体機能が高いものは術後早期に歩行獲得が可能であったと考えられる。さらにJKOMのなかでも日常生活のみが関連因子として同定されたが、この項目には、歩行・階段・しゃがみ込み・家事動作など障害側だけでなく非障害側を含めた関節機能を総合的に反映しており、術前からの総合的な動作能力が歩行自立期間に関連すると示唆された。術前の理学療法介入による機能改善や術後歩行獲得日数に与える影響は今後の検討課題となった。