[P-065-B] 行動経済学的知見を活用した薬剤師の情報戦略:リスク確率とpeak and ruleが架空の高血圧治療薬の服薬意欲に及ぼす影響
【目的】慢性疾患における服薬アドヒアランス不良は、治療成績の低下や経済的損失をもたらす。そこで近年、患者の服薬意欲を高めるための情報戦略が注目され始めた。他方、行動経済学では、出来事の最も強度が強い部分と最後の部分が印象に残りやすい傾向(peak-end rule)が知られている。そこで本研究では、薬のリスク確率(peak)を服薬指導の終盤(end)に提供する情報戦略を用い、服薬意欲の改善効果を検証する。【方法】20歳から79歳の成人を対象としたオンライン・シナリオ調査を実施した。回答者は、架空の高血圧治療薬に関する地域薬局薬剤師の服薬指導シナリオ動画のうち1つを視聴し、その薬に対する服薬意欲を評価した。服薬指導シナリオは、リスク確率(3%)の有無と、リスクとベネフィットの提供順序に従って4種類に分けられた。【結果】医療従事者と不誠実回答者を除いた383人を対象とした分析の結果、リスク確率の提供によって、服薬意欲の増加が示された。一方、リスク確率が提供されない場合、回答者はリスク確率を平均28.7%と見積もっていた。さらに、リスク確率が提供されるシナリオでは、情報がベネフィット・リスクの順序で与えられた場合、その逆順と比較して、服薬意欲が増加した。また、リスク確率が提供されない場合は、情報の順序は服薬意欲に影響しなかった。【考察】第一に、リスク確率が提供された患者は、その確率が自身の想定よりも十分に小さいことを理解するため、服薬意欲の増加を示す。このことから、薬剤師が患者にリスク確率を提供する機会を増やすことで、服薬意欲を改善できる可能性が示唆された。第二に、リスク確率は、peak-end ruleの影響を受けるため、服薬指導の終盤に提供されることで、患者からより多くの注意を向けられる。この情報戦略は、簡便に実施可能であり、文化差や教育歴に依らない認知的性質を利用しているため、様々な患者、疾患への適用が期待できる。